夢幻なる絆

□4.新婚旅行
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「う〜ん、やっと解放された。札のままでは、やはり好まない」
「ご苦労様でした。シロちゃん」

宿に着き部屋に通されてすぐ札になっていたシロちゃんが、いつもの姿に戻り伸びをし愚痴を言う。
その姿は相変わらず滅茶苦茶愛らしく、見てるだけで癒され顔に締まりがなくなっていく。

だけどシロちゃんって、本来札の姿じゃなかったっけぇ?
しかも好まないって?

「細かいことは気にするでない。それより小松帯刀はどうした?」
「帯刀さんなら、さっき藩の人に呼ばれて、藩邸に行ったよ。夕食までには戻ってくるって行ってたけど」
「その割りには凪の顔は明るいな。寂しくないのか?」
「うん、だって明日からしばらくは一緒にいられるから、今日ぐらいは我慢しないと罰があたるからね」
「そうか。それならいい。我はあやつがいなければ、凪を独占できるから大歓迎だよ」

と嬉しそうにシロちゃんは言って、私の膝にのり体を密着させ猫ちゃんのように甘えだす。
私に気を遣ってくれているのか本心なのかは分からないけれど、私はとにかく嬉しくってシロちゃんをギュッと抱きしめる。

シロちゃんがいて良かった。
いくら我慢できると言っても、一人だったら寂しいしつまらない。

「ねぇシロちゃん、お出掛けしようか?」
「そうだな。出掛けよう」

宿に着いたばかりにも関わらず、私はそう言ってシロちゃんと出掛けることにした。
幸いシロちゃんも乗り気になってくれる。



そして私達はみたらし団子を買って誰もいない隅田川の辺で食べることにした。

「美味しいね。このみたらし団子」
「そうだな。美味しい。たまには人の子が食す食べ物を味わうのも良いかも知れない」
「でしょう?」

普段何も食べないシロちゃんが一応食べられる事が判明したため、試しにあげると思いの外好評化。
そう言われると自分で作ってない癖に、得意げになって偉そうにしてしまう。

神様と人の味覚は同じなんだね。

「所で凪は明日から小松帯刀とどの予定をしている?」
「浅草散策に歌舞伎を見たり、アーネストに夕食も招待されてるし。あ、なんかどっかに視察しに行くとかも言ってた。それから芝離宮恩賜庭園に行って・・・だけど浜離宮って徳川家の物じゃなかったっけぇ?それで日光に行くんだ。温泉付きの部屋に泊まるから・・・ぐふふ」

素朴なシロちゃんの問いに、ここぞとばかりの最強の疚しい妄想をしながら無気味に笑う。

帯刀さんと初めての入浴。
あんな事やこんな事をやって、そのままベットインかな?
妄想するだけで鼻血が出そう。

「し幸せそうで何よりだ」
「うん。幸せいっぱいだよ」

最早暴走全開の私に、笑顔を引き攣らせるシロちゃん。

そんな時だった。

「おいそこの女、一体誰としゃべっている?」

背後から明らかに厳しい疑いの声が、私に向けられ掛けてくる。
恐る恐る背後を振り向けばそこには、長い赤毛を三つ編みで結った少年が私を睨んでいた。
未来で言うなら高校生ぐらいなんだろうけれど、この時代なら多分立派な大人。

なんか知らないけれど、とてつもなく怖い・・・。
そして完全にやばい・・・。



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