夢幻なる絆

□2.高嶺の花
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「小松様、凪さん」

もうすぐ小松邸という所で、女性が帯刀さんと私の名を呼ぶ。
振り向けばこないだの宴会にいた帯刀さんお気に入りの芸者のお琴だった。

お琴。
帯刀さんと結婚することになる、まだ十六歳の女の子。
どこかの本で読んだ通りの美しく愛らしい子。
凡人以下の私とは大違い。

「お琴。稽古の帰り?」
「はい。小松様が歩きなんて珍しいですね」
「たまにはね。凪くんも居るから」

簡単なあいさつ程度の会話なのに、帯刀さんとお琴はすごく楽しそうでお似合いだった。
どこから見てもお似合いで絵になっているけれど、私がいることによってその絵が台無しになっている。
それが身にしみて実感した私は、たちまち惨めになり心がミシミシ音が鳴って痛み出す。
あんなに幸せだった一時が、一瞬で泡見たく消えてなくなった。


「私邪魔みたいだから、先に中へ入ってますね」
「凪さん、何を言ってるんですか?」
「そうだね。君は邪魔だから、先に帰ってくれる?」
「・・・ごめんなさい」

無理して笑ってそんなことを言うと、お琴は驚きそう言ってくれるけれど帯刀さんは本当に邪魔そうに私を突っぱねた。
帯刀さんから初めて邪魔だと声に出して言われてしまい、気が動転し頭をカナヅチで叩かれたショックを受け一目さんで退散する。



「凪さん、お帰りなさい。旦那様と一緒じゃなかったのですか?」
「帯刀さんなら、門の前でお琴と楽しそうに話してるよ」
「お琴さんですか。旦那様は若い美人に滅法弱い人ですから、本当に仕方がない人ですね」
「そうだね。・・・帯刀さんは、お琴がお気に入りなのかな?」
「でしょうね。・・・まぁ一番のお気に入りは、凪さんだと思いますが・・・
「やっぱり、そうか。私自分の部屋に戻るから、帯刀さんが帰ってきたらそう言っといてくれる?」
「はい、かしこまりました」

家に入るといつものように女中頭の梅さんに出迎えてくれ、平然を装い帯刀さんとお琴の話を切り出せば、返ってきたのはやっぱりと言わんばかりの残酷なことだった。
梅さんにとってはそれはごくごく当たり前のことで、悪気がなく当然のように答え仕事を再開させる。

何か小声で呟いていたのは聞こえなかったけれど、たいしたことがなさそうだから気にすることではないだろう。

帯刀さんは高嶺の花・・・。

帯刀さんは近いうちに、お琴と結婚することになる。
そしたら私は、もう帯刀さんの傍にいれられない。
そんなの分かりきっていたはずなのに、私ったら何やってるんだろう?
なんでこんな気持ち気づいて、しかもバカのように浮かれていたんだろう?

自分の部屋に戻った私は、思い切りただ泣くしかできなかった。



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