夢幻なる絆

□2.高嶺の花
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「龍馬、しばらくここに私を置いて」
「は、いきなりなんなんだ?」
「家出してきた」
「い家出?」

龍馬の所に行くなり単刀直入にお願いすると、お茶を飲んでいた龍馬は勢いよく吹き出し目が点になった。
爆弾発言だったから無理もない。

「私のこと背後から抱きしめて誘惑して来た癖に、私が戸惑いながらも答えようとしたら声出して笑ってきあがった。人の心をあの野郎はいつも玩ぶんだ」
「おい、凪。茶でも飲んで、ちょっと落ち着け」

訳を説明すればするほど怒りが増し暴走しかける私を、龍馬はお茶を入れて勧めてくれる。
だから一気飲みしてみたけれど、落ち着くどころかますます腹が立ち苛立っていく。

「帯刀の馬鹿。地獄に堕ちろ!!」
「逆効果だったか。それで凪はなんて答える気だったんだ?」
「その場の雰囲気で、私も好きです?流されやすい単純すぎる自分を、この際殺して闇に葬ってやる」
「だぁぁ〜、死ぬんじゃない死ぬんじゃ」

第三者から見ればコント以外の何もでもないことを、私は冗談抜きで護衛用の小刀を取りだし喉仏に突き刺す。
だけど龍馬が真っ青に顔を染まらせ、あっさり私から小刀を奪い取る。

「だったら帯刀さんを殺していい?」
「それも駄目に決まってんだろう?少し頭を冷やして冷静になれ」

明らかに無謀な無茶苦茶な願いもことごとく却下し軽く頭をコツかれ、ここでようやく私の暴走は止まりその場にベチョッと座った。

そしたら急に苛立ちが悲しみに変わり、大粒の涙があふれ出す。
玩ばれたことが、悔しくて惨めだった。

「私失恋するのがすごい怖い。だから帯刀さんのこと絶対に好きにならないって決めたのに、なんで帯刀さんはいつも誤解を招くことばかりするの?」
「凪・・・。お前ひょっとして帯刀のこと?」
「好きじゃない。絶対に好きじゃないからね」

泣きながら心の奥に隠していた女らしい臆病な想いをぶちまけると、龍馬は目を見開き恐ろしいことを聞いてくるから私は頭を激しく振り必要以上に否定する。
もちろんそれは自分自身にも強く言い聞かせ、この偽りの恋愛感情に似た気持ちを捨て去ろうとした。
自分の事なのに自分の気持ちがよく分からない。

ただ私はまだ本気で誰かを好きになったことがないから、失恋したってショックを受けたことがない。
それどころか相手に友達だって思われていたことが嬉しかった。

でも私は知っている。
本気で好きになった相手に無様に振られたら、どんなにショックを受けてどん底に落ちるかってことを。



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