夢幻なる絆

□エピローグ
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ディナーに向けて一旦解散になったもののみんなで銭湯に行くことになったのに、私は帯刀さんと二人だけで我が家に帰ってきて一緒に入ることになった。
男女別が気にくわなかったらしい。

「帯刀さん、いつ私を薩摩に連れてってくれるんですか?」
「そうだね?両親に孫の顔を見せたいし、年末ぐらいにしよう」
「楽しみにしてますね」

なんだかんだで未だに行けていない薩摩行きをせがむと、意外にも具体的な回答が返ってくる。
帯刀さんの両親とは本当の両親なのか義両親を言っているのかは分からないけれど、どっちにしてもお粗末な態度を取ったら疎まれるだろう。
ちゃんとしなければ。

「そんな顔しなくてもいいでしょ?夕凪は私の愛しい妻なんだよ」
「帯刀さん、そう言う格好でそう言う台詞を言わないで下さい」

急に甘い言葉を言われてしまうとムラムラしてきて、とっさに視線を背ける。
心臓の鼓動も高鳴り初め、意識してしまう。
風呂場でこの感情は非常に困ります。

「そう言う夕凪は色っぽくて好きだよ」
「だからそう言う」
「どうして私達だけ銭湯に行かなかったと思う?」
「二人っきりが良かったんですよね?」
「そう。そしてさっきは邪魔に入ってしまった愛しい妻を心行くまで堪能するため」
「え、そんなのだめですよ。これからディナーに行くんですから」

すでに野獣化している旦那様は私の異変に気づき私を抱き締め誘惑する。
素肌が触れ合い吐息に麻痺する。

帯刀さんのすべてを感じてますます私は・・・。

「ディナーと私どちらがいいの?」
「そんなの帯刀さんに、え?」

流されやすい私は帯刀さんの罠にはまってしまいもうディナーなんてどうでも良いやと思いきや、足を石鹸に滑らせ体勢を崩し帯刀さんを巻き込み派手に転ける。
とっさに帯刀さんが下敷きになってくれたので無事なんだけれど、おかしな体制になっていていつものは逆になってしまった。

・・・当たり前だけど。

真剣な瞳で見つめられ心配されてるようで、怒ってる様子はまったくない。

「夕凪、平気?」
「はい。ありがとうございます」
「それなら良かった。でもこれなら安心だね?」
「え?まぁ確かにそうですけど・・・。だけど帯刀さんは大丈夫なんですか?」

私が無事だと分かると表情が和らぎ再び抱き締められ、少し違う解釈されてしまう。
きっと分かって言っている確信犯。
しかし私の下敷きになっている帯刀さんの方が怪我や打撲をしてるんだと思う。
ようやくボス戦の傷口が塞がったのに、今度は私が原因なんて凹みそう。

「たいしたことないから気にしなくてもいい。それより私を受け入れなさい」
「駄目です。打撲ならすぐ冷やさない」
「却下。私は今すぐ君が欲しいの」

厳しく否定してもそれは通らずに、唇は塞がれ舌も絡まり合う。

もう駄目だ。
このまま私は流されて、最後までしてしまう。
いけないけれど、手当ては出てからで良いや。





「帯刀も真面目な顔して、結構やるんだな?お前の嫁さん今にも野郎に襲われそうな女の色気が駄々もれだぜ?」
「え?ヒノエさん?」
「ご忠告ありがとうございます。今日は妻から離れません」

長めのお風呂から出て自室に向かう途中、ヒノエさんと会い私をみた瞬間そう言われてしまい帯刀さんは冷静に対応。
なぜヒノエさんがここにいるかと言うより、なぜそう言うことにすぐ気づくと言う驚きが強い。

それともそれが普通?

「それよりマリアを知らないか?先に崇とこっちに帰ると置き手紙があったんだ」
「それでヒノエさんも戻ってきたんですね?マリアくんはみんなで銭湯に行くと言って別れましたが、そう言えば帰ってくるのが遅いですね?」
「崇くんに浅草を案内してるんじゃないんですか?ヒノエさん、会瀬の邪魔をしたら駄目ですからね?」

ここにいる理由が分かり要らぬ心配をするヒノエさんに、呑気な回答を言い釘もさす。
せっかく崇くんがこちらにこれたのだから、色々案内したいと思うもの。
私との思い出を作りたいと言ってくれたけれど、やっぱり彼氏が最優先だろうからね。

「んなことは分かってる」
「本当ですかね? 」
「なんだよその疑いの目は?崇との結婚は当分先だが、交際は認めてある」

前にも聞いたような台詞が苦し紛れの言い訳が返ってくる。
この台詞がすべてを物語っていた。

そもそもこの人は本当に娘の交際を認めたのかさえ疑わしきものである。
心の奥底では別れさせようとしてるとか?

「マリアちゃんに嫌われないようにして下さいね?」

これが私に出来る最後の警告だ。

「ようやく父娘の絆が復縁出来たんだから、それは心得ている。現在失っていた時間を埋めてるよ」
「その割にはあちらの世界ではしばらくホテルに帰って来ないって、マリアちゃんが言ってましたよ。何してたんですか?」

さっきマリアちゃんが寂しそうにそう言っていたことを思い出す。
ちゃんと崇くんの両親には挨拶をしてくれただけで、それっきり帰ってこないとか。
渓は夜には帰ってくるとは言っていたけれど、渓には都と言う彼女がいるから仕方がないかもしれない。
でもヒノエさんの場合は何も

「昔の仲間とマリアと渓を苦しめていた組織を解体させてきた」
「はい?」
「さすがヒノエさんですね?尊敬します」

予想を越える凄すぎる真相を涼しげに話すヒノエさんにド肝を抜かれお腹の底から声をあげた。開いた口が塞がらない。

その組織ってマリアちゃんを使って世界征服を企むような大組織だよね?
それを昔の仲間と解体?
ヒノエさんの昔の仲間って、元八葉だった。
なのに帯刀さんは簡単に受け入れている。

「仲間の一人が警察のお偉いさんになっていてな。以前から目をつけていたらしく、そんでもってもう一人が潜入調査してたもんだから意外と早く方が付いた」
「そうなんですか?無事で良かったですね」

流石元八葉なのかなんなのかは分からないけれど、もうそれしか返す言葉が見つからなかった。
とにかくこれであっちの世界にも平和が訪れると言うことだろう。

「ヒノエさん、マリアさんがお戻りになられましたよ」
「お父さん、ただいま」
「このことはくれぐれもあいつらには内密にしとけよ 」

梅さんに呼ばれてマリアちゃんの元気な声が聞こえたら、ヒノエさんから固く口止めされ嬉しそうに玄関に走っていく。
こう言うところは良い父親だ。

「親は強しと言うのは本当なんですね?」
「私だって子供と妻のためならいくらでも強くなれるよ」

そんなヒノエさんを微笑ましく感心しながら無意識に呟けば、父親らしく頼もしい答えが返ってくる。
表情も勇ましくますます惚れてしまい、自分から抱きつきキスをせがむ。

そして触れ合う。


私はこれから先も帯刀さんを惚れ続けるんだろう。
お婆ちゃんになってもそうだとしたら素敵だけど、さすがに子供達と孫達にドン引きされて見放されるかも知れない。



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