夢幻なる絆

□エピローグ
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「コロ、大丈夫?」
「ワンワン」

リードを付けられ窮屈そうに見えるコロに聞いてみると、いつも通り尻尾を降りながら元気良く吠えてくれる。
大丈夫と言ってくれているんだと思うけれど、私はやっぱりリードは嫌いだ。
そんなの着けなくてもコロは私の傍にいてくれるのに、こっちの世界では着けないと外で歩けないと言うから仕方がなく。
それにペット禁止と言うところも多い。
コロと出会う前は崇とお兄ちゃんがいてくれれば他のことはどうでもいいと思ってたけれど、いざこの世界に目を向けてみれば制限が多過ぎて人も多いから苦手だ。

「早く凪達のところに戻りたい」
「?」

言ってはいけない本音を呟いてしまい立ち止まると、コロには分からないようで私を見上げ首を曲げる。

お父さんはこの数日帰ってこなくて、お兄ちゃんは夜には帰って来てくれるけれど毎日忙しそうだ。
二人とも楽しい毎日を送っているのに、私だけが戻りたいなんて言えない。
でも私は熊野に戻るまで凪達と楽しく過ごしたかった。

「・・・崇に相談してみよう」

一人では何も解決しないので、コロを抱き上げ崇の家へと急ぐ。





「あら、マリアちゃん。いらっしゃい。崇くんなら今おつかいを頼んでるから、中で待っててくれる?」
「・・・コロも入っていいですか?」

崇の家ではおばさんがガーデニングをやっていて、私を快く迎えてくれる。

ゆきのお母さんは優しくて私にも良くしてくれるんだけれど、それでも私はちょっと苦手で緊張してしまう。
何を考えているのか分からない以上心を許したらいけないと、お兄ちゃんから教えてもらったから。

その点凪は裏表のない人だって分かったから、すぐに信用が出来て仲良くできた。
大人だけれど子供みたいな人。
だけど芯はあって頼りになる憧れの人。

「ごめんね?この子は玄関までにしてくれる」
「・・・だったら私は都んちの神社にいます」

申し訳なさそうに断られてしまい、私も潔く引きそう言って会釈をする。
お兄ちゃんとお父さんと挨拶に来た時もコロは中には入れてもらえず、都に少しの間預かってもらっていた。
なんでもお父さんは犬アレルギーらしい。
犬アレルギーは犬が近くにいるだけで、くしゃみが止まらないらしい。
だから仕方がない?

「ねぇマリアちゃん。その子のこと好き?」
「はい。コロは私の大切な家族」
「そうなんだ。ゆきも崇くんも動物が大好きで、私も実は大好きなの」
「え?」

ガッカリする私に気づいたのかおばさんは思わぬことを話始め、コロの頭をなぜる。
嬉しそうに尻尾を振るコロ。

「可愛い子ね?すごい賢いんだってね?」
「うん。コロは私の言うことを聞くし、迷子になっても道案内してくれる」
「そうなの?きっとこの子もマリアちゃんのことが大好きなのね」
「ワンワン」

初めてちゃんと会話をしてみると、私の話を聞いてくれてその返答も嫌がらずにしてくれる。
おばさんはわたしとただ仲良くしたいと思っているだけ。
そう判断すると苦手意識がなくなり、おばさんの顔を見あげる。

「やっと笑ってくれた。マリアちゃんは人見知りが激しいって聞いていて、私と主人には表情が固くなってたからどうしたら仲良くなれるかなって思ってたの」
「そうなんだ」

するとおばあさんはホッとし、そう言いながら微笑む。
確かに私は人見知りはある方だけれど、これからは苦手意識を少しずつなくしていこうと思う。

「あ、崇くんが帰ってきたわ」
「ワンワン」
「あ、本当だ。崇」

おばさんに言われて視線を変えると、買い物袋を持った崇がこちらに走ってくる。
そんなに走らなくても私は待っているのにと最初は思っていたけれど、最近はもし私が崇だとしても同じように走ってしまう。
少しでも早く逢いたいから。




「マリアちゃん、こんにちは。電話くれれば迎えにいくのに」
「崇、こんにちは。たまには私から迎えにいきたかったから」
「ありがとう。実は僕も買い物が終わったら、マリアちゃんを迎えに行こうとしてたんだ。昨日ついにブラコンが直ったんだ」
「本当に?乗る」

嬉しそうに崇が話すから私まで嬉しくなり、更に待ち望んでいたことがついに訪れた。

「そうこなくっちゃ。お母さん、これよろしくね」
「ありがとう崇くん」

とおばさんに買い物袋を渡すと私の手を掴みブランコへと急ぐ。



ブラコンはただ直しただけではなく、可愛らしくコーディネートもされていた。
ピンクのペンキで塗っていて、色とりどりの花が飾ってある。椅子にもクッションが置いてあり、座り心地が良さそう。

「すごく可愛い」
「喜んでくれてよかった。さぁお姫様、どうぞ乗って下さい」
「うん」
「それでは出発進行」

掛け声と共にブランコはゆっくりと動き出す。

最初は乗るのを嫌がっていた崇だけれど、今はこうして楽しんで乗ってくれている。
私に気を使っている感じもしない。

やっぱり崇と一緒にいるのは楽しい。
これからもずーと崇と一緒にいたいけれど、本当にこの幸せという物は続いていくのだろうか?
熊野に戻れば私は自由に生きられる?

「ねぇ崇。私はもう自由なんだよね?」
「もちろんだよ」
「私を利用する大人はもういない?」
「いるわけないよ。だからこれからはマリアちゃんが好きなことをすれば良いんだよ。何がしたいの?」

考えたらなんとなく不安で崇に確認すれば迷わずすぐに肯定してくれ、前にお兄ちゃんが言ってくれたのと同じ事を聞いてくれる。
あの時の私は学校に行きたいと答えたら、お兄ちゃんは本当に叶えてくれた。

だとしたら崇も私の願いを叶えてくれる?

「私は凪と思い出を作りたい」
「凪さんと?マリアちゃんって凪さんのこと好きだよね?」
「うん、大好き。崇だって凪を知れば好きになると思う。あ、でも私のことより好きになったら困る」

私の願いに気乗りしない崇にそれでも自分の意見を押し出し続けてみるけれど、そうなってしまったら嫌なことに気づき言うのを辞めた。

凪のことは大好きだけれど、崇を取られたくない。
そうなったら私は凪が大嫌いになると思う。
・・・でも・・・。

すると崇は照れくさそうに笑い、こぐのを辞め私を強く抱きしめる。
崇の良い匂いと暖かい温もりに包まれ不安が消えた。

「嫉妬するマリアちゃんも凄い可愛い。そんなわけないだろう?僕の一番はこれから先もマリアちゃんだけだよ」
「うん、そうだね。私の一番もずーと崇だけ」
「マリアちゃん、愛してる」

と崇は言って、私達の唇は重なり合う。

甘酸っぱい味がした。




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