夢幻なる絆

□15.遙かなる時空の中で
6ページ/28ページ

「それじゃ決戦の時も近いってことだな」
「はい。神子殿達とも相談して決めようと思います」

夕食中渓達にも黒麒麟の事を詳しく話すと、ヒノエさんは真剣さの中にどこか安堵する表情を見せる。
ラスボスその1との対戦に不謹慎とも思えるけれど、それ以上に元の時空に戻れることが嬉しいみたい。
まぁ愛しの奥さんを残して来ているんだから当たり前か。

「もうすぐ凪達とはお別れなんだね?」
「そうだな。淋しくなるな」
「うん・・・」
「いやだな二人とも。もうしんみりモードなんて流石に早いよ」

宮ちゃんには普通にいなくなることを告げていたのに、今はここぞとばかりに悲しげに落ち込んでしまうマリアちゃん。渓も訪ねられてマリアちゃんの頭をなぜながら肩を落とす。すっかりお別れムードになってしまい私は茶々を入れるけれど、段々淋しくなって来て涙が出そうになる。
本当にもうすぐお別れなんだ。

「そんじゃ祝賀会は神子姫様ご一行も誘って温泉旅館に一泊でもするか?」
「あそれいいですね?龍神温泉にしますか?」
「霧島温泉も良いですよ」

マリアちゃんを悲しませないようにヒノエさんは気の聞いたことを言い出し、本気なのか冗談なのか温泉名を上げ男性陣は盛り上がる。

この分だと酒盛り突入か。

「帯刀さん、お酒はほどほどにして下さいね」
「分かってるよ。さっきは中途半端に終わってしまったからね?続きでしょ?」
「そそう言うことじゃなくって」

帯刀さんの体を心配して釘を差したつもりのはずが、そう言うことになり耳元で甘く囁かれ耳たぶを甘噛みまでされてしまう。

確かにさっきは途中で梅さんに呼ばれて中断するしかなかったけれど、最初の方だけだったから今回は結構平気。
泥沼ではなくても酔ってると強引になるから、あんまりやりたくないな。

「お兄ちゃんもお父さんもお酒は呑んでも良いけど、あまり酔わないで」
 『はい、分かっております』

マリアちゃんもそう不安げにお願いをすると、弱い二人は二つ返事で了解する。
これで今日は酔っぱらいがいなくなるだろう。
めでたし、めでたし。

「だったら私達は軽くお菓子でも食べようか?」
「うん」
「だったら大学芋でも食べます?さっき作ったんですよ」
「本当に?食べる食べる」

お酒が呑めない私達はお菓子を食べることにしたら、悩む前に美味しい食べる物が決まる。
この時代にはまだないのとわざわざ買ってまでは食べない大学芋。
だけどタレと芋の絶妙なら絡み合いと胡麻の比率が何とも言えない味なんだよね?
一度食べると止まらない。

「大学芋?」
「少し未来の食べ物です。なんでも学生に人気があったとか、学生がお金を稼ぐために作って売ったとか説がありますが、とにかく美味しいさつま芋を揚げて甘いタレをかける食べ物です」

当然知らない帯刀さんとヒノエさんの頭上には巨大なクエッションマークが浮かび上がり復唱するから、私は簡単な歴史を付け加え味も大雑把に説明する。

明治後半にはあったらしいから後五十年弱?
その頃まで私と帯刀さんは生きていられるだろうか?
おばあさんとおじいさんになって縁側で仲良く日向ぼっこしたいな。

「渓は本当になんでも作れるんだな?」
「マリアが喜びますからね?父上もやります?」
「オレの得意料理はハンバーグだ」
「お父さん、ハンバーグ作れるの?私大好き」

いかにも渓らしい理由に微笑ましく思っていればヒノエさんの意外過ぎる特技を知る事になる。

ヒノエさんが料・・・まぁ渓が家事全般が得意なんだからそんなに意外ではない?

そしてすぐにマリアちゃんは笑顔になり興味を見せる。これはヒノエさんにはたまらない事なのでこっちも表情が崩れた。

「なら明日作ってやるよ。母さんも大好きなんだぜ?」
「嬉しい」
「そう言えば、ハンバーグは父上が担当でしたね?俺も楽しみにしてます」

そして結果的にはこうなり、渓も珍しく童心に戻っているようだった。

ヒノエさんの料理の腕前が良く分からないけれど、帯刀さんが私の料理を好むように二人にとっては美味しい料理なんだろうな?
私もお手伝いと称して、作り方を学ぼう。

「任せとけ」

自信満々に胸を張るヒノエさん。
相当自信があるらしい。

「それじゃぁ大学芋を持ってくるので、少し待ってて下さい」

と渓は言って、勝手場に向かう。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ