夢幻なる絆

□15.遙かなる時空の中で
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「夕凪、取り敢えず終わったよ」

帯刀さんの顔を見た瞬間涙が滝のように溢れ出し、勢いよく胸元に飛び付く。

しかし

「・・・っ」

優しげの笑みが何かを堪える苦しそうな表情に代わり、よく見れば着物はズタボロで真っ赤に染まっている。
安心したのも束の間で血がさっと引くようで、頭の中が真っ白になる。

「帯刀さん、死んだら嫌です」

そんな言葉しか出てこない。

「このぐらいで死ぬわけないでしょ?私よりゆきくんと瞬が重体で今南方先生が緊急手術をするよ」
「え、ゆきと崇のお兄ちゃんが?」

しかし帯刀さんはそう言ってくれ私の頭をなぜてくれるけれど、今が別のことで緊急事態だってことを知る。

ゆきと瞬が重体で、緊急手術。
ボス戦の代償は思いの外大き・・現実はこのぐらいが普通?

「詳しくは渓かヒノエさんに話してもらいなさい」
「お兄ちゃんとお父さんは怪我してない?」
「かすり傷程度だよ。医務室にいるから」
「マリアちゃん、私が案内します。凪ちゃんはここで帯刀様の治療をして下さい」
「ありがとう」

二人が無事だと言うことを知ったマリアちゃんは安堵し、いつになくテキパキしてる宮ちゃんに連れられ部屋を出ていく。
残された私達二人。

「お湯を貰って」
「そんなことより」
「え?」

私も早速帯刀さんの治療をしようと用意しようとすれば、帯刀さんはそれを許さず私を強く抱き締める。
さっきはあんなに苦しそうだったのに、今は安らいでいる笑みに変わっていた。
そんな表情を見ているだけで私は幸せ。

「妻の温もりは何よりのも癒しだからね?」
「何言ってるんですか?破傷風になったらどうするんですか?」
「そう?なら手当てが終わったら私が満足するまで癒してくれる?」
「いくらでもしますよ。上半身だけ脱いどいて下さいね?」

私だっていつまでも帯刀さんの温もりを感じていたいけれど、今はそれどころではないことぐらい分かってるから心を鬼にする。
物凄い交換条件を付けられ言うことを聞いてくれた。

怪我人なのに、あなたは一体何をするのですか?


「重傷じゃないですか?」

お湯と救急セットを持ち部屋に戻ると帯刀さんは言いつけ通り脱いでくれてはいたけれど、予想以上の生々しい傷に青紫に染まる打撲の数。
見ただけで痛々しい。

「私だって武士だからね。このぐらいはたかが知れてる。寧ろこのぐらいですんで良かったよ」
「よくありません。私は妊婦なんですから、あまり心配させないで下さい」

痛いはずなのに涼しげに迷いもなく受け答えされ、怪訝しく言い返したもののそれなりにショックする。

今まで家老以上の事はあまり考えなかったけれど、この人は武士なんだ。
何かあったら戦うだろうし、今までだって戦ってきた。
私の知る歴史では武士の世は後数年で終わり小松帯刀は政治家になるけれど、この世界の未来はどうなるかまだ分からない。

「仕方がないでしょ?妻と子を護るのも旦那の勤め。多少なりとも無理はする。でも命は落とさないとは約束する」
「それ矛盾と言うものですよ」

山住みになる不安がたまらなく怖くなり再び涙が溢れ止まらなくなるのに、帯刀さんは根拠のない自信をもう一度固く約束する。

いつもは慎重すぎるのに、その自信は一体どこからくるんだろうか?

「それでも約束する。だから泣かずに治療してくれる?」
「・・・はい」

不満があってもここまで言われたら納得するしかなかった。



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