夢幻なる絆

□13.新しい選択
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「これで二三日安静にしていれば大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。ウィリス先生」

英国大使館付きの先生に治療をしてもらい辿々しい日本語で言ってくれたので、私はニッコリ笑い頭を下げお礼を言う。
私の怪我は軽い捻挫で、たいしたことがないらしい。
先生は物珍しそうに私を見つめ、少しだけ違和感を感じる。
まさか日本人は苦手?

「アーニーとの関係は?」
「友達ですよ。私これでもミセスですから」
「これは失礼。薩摩潘家老小松帯刀の正妻でしたね?」
「え、はい。そうです」

いきなり脈略のない問いに誤解がないよう率直に答えると、意外にも私の素性を知っていて驚く。

ひょっとしたら私の事は、アーネストから聞いているとか?
そう言えばリアルではアーネストの親友だとか書いてあった。
六歳も離れて親友だなって疑っていたけれど、さっきの二人を見ていたら嘘じゃないかも?

「どうかされましたか?Mrs.凪?」
「ウィリス先生は日本人が嫌いですか?」
「私は日本人と言うだけで、好き嫌いの判断はしません。事実Dr.南方や小松さんは尊敬しています」
「なら私と同じですね。私も異人だからと言って毛嫌いするのはおかしいと思うんです」

つい話題にしてはいけないことを聞いてしまい気まずい空気が流れると思いきや、意外にもウィリス先生の考えは私と同じで嬉しかった。
しかも帯刀さんと南方先生を尊敬しているなんて、なかなか見る目がある。

大英帝国の医師達も、あなたには一目置いているのです。

アーネストが言っていた言葉は、本当だったんだったんだね?

「なるほど。アーニーがあなたを気に入っているのがよくわかります。あなたはなんでもズバズバ言うタイプでしょう?」
「そそうですね。思ったことはすぐに言ってしまいます」

それだけで私の本質を見抜かされてしまい否定できず、よそ見をしながら肯定をした。
建前が言えなく本音ばかり言って相手を怒らす。
アーネストにだって本音で皮肉を言わなければ、いろんな意味で気に入られずにすんだと思う。
そしたら今でもアーネストは白馬の王子様的存在だった?

「それが彼にとって良いんですよ。これからも仲良くしてあげて下さい」
「もちろんです。なんかウィリス先生って、アーネストのお兄さんみたい」
「よく言われます」

アーネストのことを大切に思っていることがよくわかり、親友と言うより仲良し兄弟と言った方がしっくりとくる。
本人も嬉しそうに微笑みながら頷いているし、アーネストもウィリス先生に頼っていた。
ウィリス先生もアーネストの好きな人を知っていて相談されてると思うけれども、さすがに教えて下さい何て言えるはずがない。

「そう言えば、アーネスト遅い・・・クンクン。この匂いはスコンと紅茶?」

会話か弾む中甘い香りが漂い始め、私は思わず声をあげヨダレが止まらなくなる。
焼きたてのスコンの甘く優しい匂いは最強。

「ウィル、凪さんの手当ては終わりましたか?」
「ああ、今終わったよ。Mrs.凪はアーニーの言う通り素敵な女性だね?」
「え、素敵な女性・・・」
「それは違います。凪さんは教えても学ばないトラブルメーカーです」

素敵なアフタヌーンセットを持って来たアーネストに、ウィリス先生は私を誉めてくれるけれど、アーネストは酷いことを言い捨て鼻で笑う。
いくら真実であっても、こうも言ったら酷すぎる。




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