夢幻なる絆

□13.新しい選択
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「帯刀さんこの温泉気持ちいいですね?」
「そうだね。しかし私は霧島の温泉の方が好きだよ。出産してしばらくしたら、今度こそ連れて行ってあげる」

渓自作の温泉は本格的な物で高級温泉宿さながらだけではなく、お湯もねっとりしていて白くて気持ちがいい。
すぐに気に入った私とは違い帯刀さんはやっぱり馴染みのある地元の温泉の方を絶賛する。
子供の頃から入っているんだから、当たり前と言えば当たり前。

「楽しみにしていますね。薩摩は芋焼酎が美味しい」
「母乳中は飲酒禁止だよ」
「あ、そうですね。我慢します」

ついつい誘惑に負けて深く考えなかったら、ごもっともなことが返ってきて考えを改める。
お酒は子供には悪影響。
コップ一杯ぐらいしておかないと、またマリアちゃんに怒られちゃう。

「薩摩は芋焼酎だけではなく食べ物も美味しいから、そちらを楽しみにしていなさい」
「ですね」
「夕凪、そうやっていつも幸せそうに笑っていなさい」
「いきなりどうしたんですか?」
「私だけの愛しい花」
「なんだ。私また帰るんですね」

突然強く抱き締められ温泉プレイをいよいよ決行されるのかと思ったら、いつの間にかブレスレットが光っていることに気づき落胆する。
別れの猶予があることに感謝しないといけないのに、辛さと悲しみが増すだけで感謝なんてできない。

本当に龍神が力を取り戻したら、私は帯刀さんの傍に一生いられるのだろうか?

「夕凪、今度も大丈夫だから泣かないの」
「そんなこと言わないで下さい。そこまで考えていなかったのに、二度と会えなくなるかも知れ」
「すまない。余計不安にさせてしまったね。それだけは絶対ないから安心しなさい」

帯刀さんの懐で泣いてしまう私に励ますつもりで言われた言葉を誤った解釈をして、余計帯刀さんを困らせさらにきつく抱き締められ根拠のない約束をさせてしまう。
絶対なんて言う保証はない。
これが一生の別れになるってこともありえる。
だけど

「はい、分かりました」

そこまで言ったら帯刀さんも傷つくことになるから、素直にうなずき涙を拭き取り顔をあげた。
帯刀さんにこれ以上、辛い思いをさせるわけにはいかない。
私もいつもの私らしく前向きに考えよう。

現代の科学が誇るベビー用品をたくさん買って、持ってくればいいんだ。
最新式のベビーカー、おもちゃ、周辺用品。

考え出したらきりがない。

「逆にそう言う楽しげな笑顔を見せられると、それはそれで面白くないんだけれど。どうしてそんな笑顔が出来るの?」
「この子の物を手当たり次第買うことにしたら、なんだか楽しくなってしまったんです。すみません」
「子供のことなら構わない。私の方こそすまなかった」

なぜか少しだけ拗ねてしまった帯刀さんに、お腹をさすりながら訳を話すとわかってもらえてホッとする。

こんな時にあんまり笑顔でいるのもまずいよね?
もし逆の立場だったら、私だって面白くないし誤解する。

私何馬鹿見たく浮かれているんだろう?

・・・・・・。
・・・・・・。

「あ〜」
「突然何?」
「私こっちに来る時、弟の家にいたんです。だからこんな格好だったら非常にまずいんです」

突然重大なことを思い出し、バッと立ち上がった。
いくら弟と言えども、こんな姿を見せられない。
見られたら恥ずかしくて、きっとあの時見たく泣いてしまう。
しかもあの時は帯刀さんがいてくれたから良かったんだけれど、今度はいないから自分でなんとかしないといけないんだ。
それから雪ちゃんにだって悪い。

「確かにそれはまずいね。この温泉なら渓に頼めばいつでも入れるから、その時にゆっくり入ればいい」
「ですよね?」

それは帯刀さんにもよく分かってくれて、そう言うことになり脱衣所に急ぎ帰る支度をする。



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