夢幻なる絆

□13.新しい選択
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「マリアちゃん、八方美人になったら駄目だよ」
「八方美人?」

部屋の片隅で小さくなりすっかり塞ぎ混んでいるマリアちゃんにそう言うと、マリアちゃんは首をかしげ可愛らしく問う。
こんな愛くるしい無垢なまなざしで聞かれたら、チナミちゃんみたいな子は太刀打ちできないだろうな。

「そう。誰からにも好かれようとしたらダメ。マリアちゃんの笑顔は祟くんと渓に可愛いよと言われたんでしょ?それでいいじゃない?」
「凪は帯刀に言われればいい?」
「うん。私の場合帯刀さんにもたまにしか言われないけれどね」

私の言葉にマリアちゃんは耳を貸してくれて大きく目を見開き問いかいされ、私は深く聞かれないように答える。
まさか深夜だけだとは言えない。
するとマリアちゃんは納得したらしく、やっと笑顔を浮かべ元気よく頷く。

「分かった。お兄ちゃんと祟が気に入ってくれているから、他が何言っても気にしない」
「そうそう。それに私だってマリアちゃんの笑顔が大好きだよ」

素直すぎるマリアちゃんはそう解釈するので、私はついそんなマリアちゃんを抱き締めてしまった。
こんな無垢な子を悩ませるチナミちゃんは、誰がなんと言おうと極悪人だ。
可愛いよぐらい頑張れば言えるはずじゃない?
いつまでも恥ずかしいでは通らないことがあると、あとで教え込まないといけないね。

「ありがとう凪。私も凪が笑った顔も好き」
「ありがとうマリアちゃん」

本当にマリアちゃんは優しい子だった。
渓が二つの世界を敵に回そうとした理由も分かる気がするけれど、なんで渓は祟くんを婚約者にしたんだろうか?
合わせ世の人間だからだけじゃない気がする。
本当に渓はマリアちゃんが祟くんを大好きになるってことを予測していたとか?
それとも他に何か理由がある?


「無事に問題解決したようだね?」
「はい、お陰さまで」
「帯刀は凪が可愛い?」
「もちろんだよ。私の妻はすべてにおいて可愛らしい。私の一番の宝物だよ」

帯刀さんもやって来て今は話を合わせ、私に肩を寄せ笑顔でそんなことを断言してくれる。

すべてにおいて可愛らしい。
私の一番の宝物。
この言葉達は魔法の言葉。
顔が自然と綻んでしまう。

「そうなんだ。私祟に会いたくなったから、戻ってくる」
「うん、それがいいよ。いってらっしゃい」
「いってきます。凪、帯刀」

って言ってマリアちゃんは元気良く立ち上がり、私がそう言うと笑顔のまま消えていった。ゆきと違ってマリアちゃんは何も代償がなく時空を行き交い出来るってことだから、こう言う時に便利なんだろうね。
好きな人と、好きな時に好きなだけ会える。
私にとっても羨ましい能力。

「それじゃぁ、私達はそろそろ昼食にしようか?」
「そうですね」

マリアちゃんがいなくなりここにいる理由がなくなり帯刀さんの一声で、私達はさっきから漂ってくる美味しい匂いがする梅さんの昼食へと足を運ばせてた。
いいことした後の食事はきっといつも以上に美味しいはず。

私にはマリアちゃんな羨ましい能力がないから、 今この幸せの時を精一杯生きてその先を考えないようにしている。

考えれば考えるほど、帯刀さんのいない未来が怖い。



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