夢幻なる絆

□小松家育児日記
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凪、娘のお気に入りに苦労する。


「だぁだぁ」
「本当に美岬は龍馬が好きだよね」
「いや〜モテる男はつらいな。よし美岬は俺の花嫁だ」
「だぁだぁ」
「え〜と、それはどうなんだろう?」

本気だが冗談だが分かりにくい台詞を、嬉しそうに龍馬は言いながら美岬を高い高いする。
美岬は美岬でおそらく意味など知らず、笑みを浮かべ喜んでいるだけ。
だから私はどう反応していいのかわからず、苦笑するしかなかった。
冗談だとしても龍馬は美岬の一番だと思っているようだけれど、実はそうじゃないことを私は知っている。
美岬にとって龍馬は、遊んでくれる優しいお兄さん。
それだけの存在。

「みっちゃんと結婚するのは私なのだ」
「クロちゃん・・・」
「ク−、クー」

そこへ来なくてもいいクロちゃんが乱入してきて、美岬の首に巻きつき顔をスリスリする。
こっちは正真正銘本気で言っているらしく、今一番の悩みの種だった。
大好きなクロちゃんがやって来たので、美岬の興味はすでにクロちゃんへと行ってしまった。
可愛そうな龍馬。

でも人と神様の恋愛など、許されるのだろうか?
非恋愛確定の恋愛だったら私は絶対に反対だし、それ以前に帯刀さんが鬼のように怒って認めないと思う。

「クロ、もう凪はいいのか?」
「もちろん凪も大好きだが、凪には帯刀がいてどう頑張っても無理だ」
「まぁそりゃぁそうだな。だから美岬なのか?」
「みっちゃんは凪の娘。凪と同じで、可愛く元気な人の子」

龍馬の素朴な問いにクロちゃんは堂々と答える。
嬉しいような悲しいような。

「あ、とっ?」

べしっ


何か察知した美岬は突然クロちゃんを放り投げ、はいはいで部屋を飛び出す。
毎度毎度お馴染みの光景だけれど、私はクロちゃんを拾い頭をなぜる。
どうも美岬は一つのことしか頭に回らないらしく、興味がなくなった物は雑に扱う。
それは赤ちゃんだから当然のことかも知れないけれど、もう少し大きくなったらどうにかなおしたい。

「クロちゃん、大丈夫。ごめんね」
「そう言う元気な所は、凪にそっくりだな。私は大好きだ」
「・・・そうか?」
「・・・クロちゃん、それ完全にマゾ発言。それに私にそっくりって・・・」

聞き捨てないショックなクロちゃんの言葉に、龍馬は呆れ私はショックで肩を落とす。
そりゃぁクロちゃんにとって私はろくな印象じゃないって知っていたけれど、まさかここまで酷いとは思わなかった。

私は美岬レベル?
それでいいのか?
ねぇクロちゃん・・・

「所で美岬はどこへ行ったんだ?追いかけなくて良いのか?」
「きっと帯刀さんが帰ってきたから、迎えに行ったんだと思う。美岬には分かるみたい」
「なんだよ。それじゃぁ美岬の一番は結局帯刀じゃねぇか?」
「ご明察」

美岬のことを偉く心配する龍馬だったけれど、私は他人事のように答えると真相をそれで知ってしまった龍馬は落胆する。
どうやら龍馬は美岬の一番だと思ってたらしいけれど、それはまずありえないこと。

パパ大好きッ子なんだから、当然一番は帯刀さん。
二番は私だと良いけれど。



「夕凪、ただいま。龍馬、来てたんだね?」
「お帰りなさい」
「邪魔してるぜ」

美岬を抱き帯刀さんがやってくる。
やっぱり美岬はご機嫌で、お土産だろうか風車に夢中で遊んでいた。
そう言う姿を、凄く愛らしい。

「みっちゃん」
「あ?」

クロちゃんの真剣な声が美岬の名を呼び、美岬は視線をクロちゃんに変え首を傾げた。
途端に感じるイヤな予感。

何この変な胸騒ぎ?
まさかクロちゃん?

「みっちゃんは誰が一番好きなんだ?」
「と、か」

予感的中の問いに、美岬は迷いなく即答する。
質問の意味を分かっていないような気もするけれども、それは少なからず美岬の好きな人。
と、か。
つまり帯刀さんと私のこと。
私としては嬉しいことだった。

しかし

「みっちゃんなんか、みっちゃんなんか、大嫌いだ」

すっかりいじけてしまったクロちゃんは泣きながら声を張り上げ、札になり私の懐に戻ってしまった。
クロちゃんの気持ちは痛いほどよくわかるしそんなに美岬を好きでいてくれるのはありがたいけれど、もし美岬がクロちゃんを一番だって言ったら親としては非常に困る。
せめて後五年ぐらいは、両親が一番だと言われたい。

「・・・ク?あ〜ん、あ〜ん。クー、クー!!」
「美岬、大丈夫。まったくクロは、相変わらず人騒がせな神だね?」

美岬は目を真ん丸くさせすぐに泣き叫び、クロちゃんを探してもいないことが分かり帯刀さんにしがみつく。
何もかもが突然だったから、何が起きたのか分からずパニックになっている。
赤ちゃんならありがちなこと。
帯刀さんはますますクロちゃんに幻滅してしまい、私も少々大人げないというか神らしくない気がする。
そんな騒ぎが落ち着いたのはしばらくしてからで、その時には龍馬はもういなくなっていた。
梅さん曰く、後ろ姿がどこか淋しそうだったらしい。



美岬とクロちゃんが元の鞘に戻ったのは、それから数日後のことであった。




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