夢幻なる絆

□12.護りたい者のため
32ページ/48ページ


「おや和宮様と凪くん?ここで一体何をしているのですか?」
「リンドウではありませんか?私達は野点をしようと思って、準備をしてたのです。一服いかがですか?」
「それいい考えだね。リンドウそうしなよ。いっぱいサービスするからさ」

準備が終わりいよいよ野点を始めようとした時、物珍しそうな顔をしたリンドウがやってきて声をかける。
宮ちゃんは嬉しそうに話私も軽いノリで便乗したけれど、二人は同時に私を見つめ首を捻る。

し、しまった。

この二人にはサービスって言葉は通じないんだ。
幕末(遙か)にも関わらず外来語は普通に通じる人達と関わっているから、すっかり注意することがなくなってしまった。
今では帯刀さんは英語はペラペラで、通訳なしでも会談ができるみたい。

「サービスと言うのは英語で、おまけみたいなものです」
「へぇ〜、そう言えば凪くんはアーネストくんと知り合いだったね」
「え、あはい。アーネストに教えてもらったんです」

極めて微妙な和訳をすると、リンドウはすぐに納得してくれる。
そう言うことにしておく。
しかし宮ちゃんは納得がいかないご様子。

「おまけ?野点で何をおまけすればよいのでしょうか?」
「うっ・・・、宮ちゃん鋭い突っ込み」
「和宮様、サービスと言うのは、こう言う場合お客をもてなすと言う意味が適切です。妻は言葉知らずで申し訳ありません」

ごもっともな意見に私は答えに戸惑い言葉をなくすのだけれど、どこからともなく帯刀さんの声が適切な答えを言い私のお馬鹿な回答を謝罪。
はっとし反射的に声の方に視線を向けると、そこにはやっぱり帯刀さんがいて呆れきっている。
そんな帯刀さんの隣には、どこかで見たことがあるような品の良い少年がクスクス笑っていた。
明らかにそれは私の事で、顔から一瞬で火が出て今すぐ逃げ出したい。
宮ちゃんと初対面の人に、私の馬鹿を晒してしまった。

「いいえ、そんなことないです。家茂公笑いすぎです。凪さんは私の大切なご友人なんですよ」
「そうだったね。すまない。でも私は君がこんなに楽しそうにしていたから、微笑ましくてつい」
「え・・・」
「げっ、・・・徳川家茂公??」
「そうだよ。だからしっかりしなさい」

可愛らしく怒る宮ちゃんに少年は素で甘いことを言って宮ちゃんをノックアウトさせたけれど、少年の正体を知ってしまった私の頭の中は大パニックを起こしてしまい爆発寸前になる。
冷めた帯刀さんの声さえスルーしてしまう。

よりにもよって家茂公に恥をさらしてしまった。
家茂公は優しい人みたいだからそう言ってくれてるけれど、本音ではこんなバカ女と親しくして欲しくないと思ったらどうしよう?
薩摩藩にも迷惑をかけてしまう。
だけど宮ちゃんの言う通り、仲良さそうで安心した。

「凪さん、これからもどうぞ和宮と親しくして下さい。あなたのおかげで和宮は明るくなり、私達の関係も良くなりました」
「ありがたきお言葉です。私の方こそ宮ちゃんにはよくして・・・はっ?」

社交辞令なのかなんなのか分からないけれどすごく誉められ、私は緊張と恐縮しながら言葉を返すがやらかした。
将軍様の奥方を宮ちゃんと呼んでしまった。

「宮ちゃん?ひょっとして和宮のことですか?」
「え、まぁその〜」
「そうですよ。凪さんが付けてくれた呼び名です」

答えに戸惑ってると我に返った宮ちゃんは嬉しそうに説明する。
本当に宮ちゃんは嬉しそうだったから、変に呼び名を変えたら悪いかも?

「可愛い呼び名で良かったですね。では私にも呼び名をつけてくれないでしょうか?」
「え?それなら将軍様の幼少名は菊千代だから“ちよりん”とか?」
「夕凪、何を馬鹿なこと言ってるの?」
「なかなか肝が座ってると言うか、なんと言うか・・・」
「ひぃぃ〜、ごめんなさい」

いきなり求められた呼び名に私は宮ちゃん同様あまり深く考えず命名したけれど、帯刀さんの顔が真っ青になり怒られリンドウには呆れられてしまった。
別に調子に乗ってないけれど、乗っていたかもしれない。

「そんなことないです。気に入りました。これからは是非」

『死んでも呼べません』

なぜか家茂公には受けがよくお願いされるが、私達の声はハモりお断りを入れたのだった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ