夢幻なる絆

□12.護りたい者のため
31ページ/48ページ


和宮様が会いたいと言われたので私は帯刀さんと一緒に、再び江戸城に訪れることになった。
帯刀さんは政務の関係で別の所に行ってしまい、私は一人和宮様の部屋に案内される。

「凪さん、いらっしゃい。今日はゆっくりできるんですよね?」
「はい。そのつもりです。帯刀さんの用事が夕方までかかると言ってましたから、今日はたくさん話ができると思います」
「それは良かった。私凪さんにたくさん話すことがあるんです」

私の何気ない答えに和宮様は、無邪気な笑みを浮かべそう言ってくれる。
そう言ってくれるとなんだか嬉しくて、私まで笑顔になってしまう。
それにしても何か良いことがあったのだろうか?

「何か良いことがあったのですね?」
「はい。凪さんの言われた通り家茂公と毎晩対話をするようにしましたら、お互いのことがよく分かって家茂公が優しくなった気がします」
「それは良かったですね。これからも続ければ、きっと良い夫婦になると思います」

笑顔の理由は前回私が助言した嬉しい報告で、役に立ったことがちょっと誇らしかった。やっぱり対話がすべてを解決してくれるんだね。
このままもっと仲の良い夫婦になれればいいと、心の底から思える。

・・・このことを帯刀さんに話したら、誉めてくれるかな?
試しに今夜話してみよう。


「ところで和宮様」
「あ」
「え、どうかされましたか?」

次の話題に移ろうとして名を呼んだ途端、笑顔だった和宮様が悲しそうな声を出し話を止める。
なにもしてないのは確かである私は、訳もわからず首を傾げ和宮様を見つめた。

一体何?
ひょっとして無意識のうちに、和宮様を傷つけた?
私なら十分ありえる話だから、そう思ったらゾッとする。

「私と凪さんはお友達ですよね?」
「はい、そうですよ」
「でしたら和宮様ではなく・・・その・・・」
「なら宮ちゃんと呼んでもいいですか?」
「!!」

不安の中当たり前のことを確認され言い方に戸惑っているのを察し、勢いで無礼とは思いつつもそれを望むならばと気軽に聞いてみる。

和宮様だから、和ちゃんか宮ちゃん。
でも和ちゃんだと男っぽいから、宮ちゃんになった。

しかしさすがにそれだと砕けすぎなのか、目と口を大きく開け呆然となった。

・・・和宮さんが妥当か。

「すみません。調子に」
「可愛らしい呼び名・・・。是非そう呼んで下さい」
「え、あはい」

私の後ろ向きな予想とは裏腹に、気に入ってくれたみたいで嬉しそうだった。
そこまで気に入ってくれると、私まで嬉しくなる。

それでいいんだ。

「なら宮ちゃん」
「はい、なんでしょう?」

改めて呼び直してみると、なんだかこちらが恥ずかしい。
でも宮ちゃんはニコニコして、私の次の言葉を待っている。
尻尾があったら絶対全開でふっていそう。
そう考えると可愛いかも?

「今日は日差しが暖かいので、庭に出て野点でもしませんか?」
「それは楽しそうですね。ではすぐに用意をさせます」
「自分達で用意から始めましょうよ!四神達にも手伝ってもらえばすぐにできます」
「そうですか?では、そうしましょう」

将軍様の妻で天皇家の家系であるのだから準備などしたことは当たり前なのに、私は無理矢理そう言って納得させてしまった。
それは良く考えると恐れがましいことなのかも知れない。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ