夢幻なる絆

□12.護りたい者のため
27ページ/48ページ


「帯刀さん、大丈夫ですか?手がこんなに冷たいですよ」
「大丈夫。料理とは案外大変なものなんだね。それがよく分かった」
「そうですね。でもまず手を温めないと。私の頬暖かいですから、・・・ほらね」

夕食の支度も準備が終わりマリアちゃんと渓を待っている中、フッと目に入った帯刀さんの微かに赤く染まった手。
その手に触ると予想以上に冷たくて、私はそう言いながら自分の頬にあてる。
冬場の水仕事はきついのに文句を言わずずっとなれない洗い物をしていたんだから、こうなるの物無理はない。
これは気休めにもならないけれど、ほんの少しでもどうにかしたい。

「夕凪辞めなさい。そんなことをすれば、夕凪が風邪を引くでしょ?」
「このぐらい大丈夫ですよ」
「駄目。君の体はもう一人の物ではないのだからね」
「もう帯刀さんは、心配性ですね。でも分かりました」

でも帯刀さんには不満らしく痛いとこ付かれてしまい、私は残念に思いながら手を引っ込む。
ここで意地を張る訳にも行かない。

私の心配より胎児の心配。
当たり前か。

「夕凪は何にたいしても危機感が無さすぎだから、私はその分気を回してるだけ。何かあったらどうするの?」
「帯刀さんは私と胎児どっちが大事ですか?」
「どっちもだよ。だったら夕凪はどうなの?」

聞いたらいけない問いを投げ掛けるとあっさり答えられ、同じ問いを聞かれはっと正気に戻る。
そんなの答えられるはずがない。
私だって帯刀さんと胎児、同じぐらい大切だ。
どっちかなんて選べない。

「変なこと聞いて、すみません」
「まったくだよ。今から我が子に嫉妬するなんて、夕凪ぐらいだよ」
「そうですよね。私何バカなこと聞いたんだろう?」

帯刀さんの言う通りで、私はここぞとばかりに反省する。

子供に嫉妬する母親がどこにいる?
しかも
母親の自覚を持つのは、これから大変そうだ。
それでも少しずつマイペースに、頑張るしかないよね?

「例え子供が何人産まれようとも夕凪は私にとって特別な存在。甘えたい時は私の胸に飛び込んでくれればいい」

と帯刀さんは私を抱き寄せ、耳元でそっと囁き唇が重なりあう。
帯刀さんの優しさが、沢山伝わってくる。


「お兄ちゃん、どうして入らない?私お腹すいた」
「マリア、しっ!今はばつが悪い」
「ばつが悪い?それってさっきも?でもどうして、凪と帯刀が仲良くしてるのが?」
「!!」

渡り廊下から聞こえてきたマリアちゃんと渓の会話。
何も分からなくて理由を問うマリアちゃんに、すべてを分かってあえて気を使っている渓。
第三者に聞かれれば間違えなくコントだけれど、私にとってはさっきのこともあって顔から火が出るほど恥ずかしいこと。
穴があったら入りたい。
帯刀さんもこれには恥ずかしいと思ったのか、頬を赤く染め視線を泳がせた。

「渓、マリアくん、入ってきて良いよ」
「あ、はい。なんかすみません」
「凪と帯刀はいつでも仲が良くて尊敬する」
『・・・・・・』

軽い咳払いして形勢を立て直す帯刀さんだったけれど、マリアちゃんの何気ない言葉で私達は再度動揺してしまった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ