夢幻なる絆

□12.護りたい者のため
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「夕凪、おかえり」
「帯刀さん?随分早いお帰りですね。夕飯をすぐに用意しますから、部屋でゆっくりしてて下さい」

買い物から帰ると帯刀さんに出迎えられ、ちょっとびっくりしながらそう言い勝手場に向かおうとした。

早く帰ってくるって先に言ってくれればもっと早く夕飯の支度をしてたのに、今からじゃどんなに急いでも二時間は掛かっちゃうよ。

「藩士達から聞いたよ。怨霊に襲われそうになったんだってね」
「でもマリアちゃんと渓が退治してくれたから、私はなんともないですよ。心配してくれて、ありがとうございます」
「シロとシュウもいるのだから、何があっても無事なのは分かっている。それでも夕凪の元気な笑顔を見るまでは、政務どころではないからね」
「ただいま。帯刀さん」

早く帰ってきた理由を知り安心させようとすると、それでもそう言われてギュッと抱き締められる。
私でもよく分かり同じだから、なにも言わず受け入れた。
無事だと分かっていても、自分の目で見ないまでは気が気じゃない。

「また始まりましたね」
「こう言う時は、ほっとくに限る」
「凪さん、お帰り・・・」
「お兄ちゃん?凪に何か」
「失礼しました」

シロちゃんとシュウちゃんは呆れきって離れようとした時、渓の声が聞こえたと思ったら不思議がるマリアちゃんを連れ退場する。
今の私達を見たら、当たり前の判断。
恥ずかしい。

「私も手伝うよ」
「え、帯刀さんが?」
「不満?」
「そんなことはないです。嬉しいです」

突然帯刀さんらしくない申し出に少々びっくりするものの、それは間違えなく嬉しいことだった。

帯刀さんと料理が出来るなんて夢みたい。




「あら旦那様?勝手場に来るなんて珍しいですね?奥様の荷物運びですか?」
「それもあるけれど、夕食の支度を手伝おうと思ってね。未来の夫は積極的に家事を手伝っているらしい」
「旦那様が家事手伝い?それ本気で言ってます?」
「もちろんだよ。夕凪に出来るのだから、私にも出来るはずでしょ?」

二人仲良く勝手場に行くとやっぱり梅さんに驚かれ、理由を知っても信じられない。
私もこれには耳を疑った。
南方先生か渓から教わったとしても、嫌なら実行しなくてもいいはず。
しかも我が家にはエキスパートの梅さんに、元大奥の紫と言う女中がいる。

「分かりました。では私が一から教えます。まずは食材を洗って下さい」
「それは料理じゃないと思うのだけれど?」
「それは、料理の基礎です。文句を言わずに洗って下さい」
「・・・分かった」

いくら帯刀さんと言えども梅先生は厳しくて反論も一度で終わり、後は大人しく食材を不馴れた手つきで洗い出す。
梅さん最強伝説は、今なお健在です。

「では奥様始めますか?本日の献立はなんでしょうか?」
「里芋の煮っ転がしとすき焼きです」

買い物をしている途中でいきなり食べたくなり、独断でそうなった。

寒い時は、すき焼きと熱燗。
最高の組み合わせだ。

「旦那様、たくさん洗い物があるので、さっさとして下さいね。それとも辞めます?」
「辞めないよ。一度言ったことは最後までやらないと、私の威厳がなくなるからね」
「旦那様らしいですね。あ、こうやって洗うんです」

半ば意地になっている帯刀さんの言葉に、梅さんはクスクス笑い洗い方から丁寧に教え始める。

その姿は、まるで親子みたいだ。




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