夢幻なる絆

□藤原兄妹番外編
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マリア、小さな誤解をする。



「ねぇ、都姉。どうしてここにいるのさ?」
「んなこと知るか!渓さんに拉致されたんだから、仕方がねぇだろう?」
「・・・拉致?お兄ちゃんは都を襲う?」
「おい、マリアなんつこと聞くんだ?」
「都姉、マリアちゃんが聞いている意味は虐殺だから」
「え・・・?」

祟と都が夕飯を食べに我が家にやってきて、お兄ちゃんが料理を作っている最中のリビングでの会話。
都がいることに気に食わない祟は不満そうに尋ねると、都もまた不服そうに答えにならない答えを言って私を悩ます。
だから私は思いつくことを不信に思いながらも聞いてみれば、なぜか都は顔を真っ赤に染め激怒し祟はそれを見て呆れ私の聞きたかったことを突っ込む。
そこへエプロン姿のお兄ちゃんが、クッキーと紅茶を持ってやって来た。
いい匂いがする。

「酷いな都。都が今日は一人で夕食に困っていたから、我が家に招待しただけじゃないか?クッキーを焼いたから、これ食べて待ってろ」
「わぁ〜、ボク渓兄のクッキー大好きなんだよね?」
「私も。いただきます」

真相を知り安心した私は祟と一緒に、クッキーを食べる。
祟は美味しいクッキーを食べ機嫌が直ったのか、いつものように笑顔を浮かべた。
お腹がすいていたから機嫌が悪かっただけ?
だったら都も?
でも都はクッキーをじっーと見つめたまま、なぜか警戒していた。

「お前が料理するのか?」
「ああ。俺とマリア二人暮らしだからね。家事全般は結構得意だよ」
「マジか?」
「お兄ちゃんの料理は、世界で一番美味しい」
「そうなのか?まぁマリアが言うんだから、食べられる・・・ん?」

あまりお兄ちゃんの言葉を信じてないようで私の後押しで渋々都は口にすると、目は垂れ下がりそうと同じような笑顔に変わりばくばく食べる。
それは美味しいって意味。
やっぱりお兄ちゃんの料理は、誰が食べても美味しいんだ。

「都姉、ボクとマリアちゃんの分もあるんだから、一人で食べないでよね?」
「夕飯、食べられなくなる」
「え、あごめん。あまりにも美味しくて・・・でも私の天使の手料理が美味しいけどな」

都の口からたまに出てくる天使という言葉があるけれど、それは祟にとっては敵の人だと聞いている。
敵なのに、天使・・・。
都はその人の味方なら祟の敵なのに、なんで仲良くしてるんだろう?
お兄ちゃんだって、都と仲が良い・・・。
私は別に何も思わないけれど、お兄ちゃんと祟に意地悪するのなら嫌い。

「そうかな?ねぇ渓兄、今夜のメニューはなんなの?」
「今夜はタコスとタンドリーチキンに、コンスープ。デザートはアップルパイだよ」
「私も手伝う」
「マリアは、祟と宿題をしなさい。手伝いは都にやって貰うから」
「私は客人だぞ?」
「我が家の格言は、働かざる者食うべからず」
「・・・分かったよ」

そんな私の思いを知らないでお兄ちゃんは都と仲良くして、キッチンに二人で行ってしまった。
お兄ちゃんのことだから意地悪されないとは思うけれど、それでも心配である。

そう言えばお兄ちゃんは祟のお兄ちゃんの友達でもあったけれど、なんであんな人と友達なんだろうか?
私は嫌い。
大嫌い。

「マリアちゃん、どうしたの?」
「祟はどうして都と仲良くする?意地悪されない?お兄ちゃんも」
「別に仲良しじゃないよ。それに都姉は関係ないし。渓兄はボクにもよく分からないけれど、気に入っているみたいだよ。マリアちゃんは嫌いなの?」
「嫌いでも好きでもない。お兄ちゃんと祟がそれで良かったらいい。なら宿題をしよう」
「そうだね」

でも祟はあんまり気にしてないようなので、私も気にしないで今まで通りの気にしないでいようと思った。

お兄ちゃんが都を気に入っているのなら、友達が沢山いるのは良いことだからそっとしておく。
ただ敵対することになるのだったら、私はお兄ちゃんと都が仲良くするのは反対する。
お兄ちゃんが可愛そうだから・・・。
私は祟と敵対したくない。
敵対したら私は悲しい。
だけどもし敵対することになるのなら、私は祟がしたいことを優先すればいいだけのこと。
祟が喜ぶのなら私はそれで良いと思うけれど、その時はお兄ちゃんは私の味方でいてくれるだろうか?

「まずは何からやる?」
「数学から。ボクちょっと分からない公式があるから、マリアちゃん教えてくれる?」
「うん。どこがわからない?」
「え〜と、この公式なんだけれど・・・」
「それならここを・・・」

そんなことを祟には言えず宿題を数学から取りかかり、祟の分からないという公式をお兄ちゃんから教わった通り丁寧に教える。
この公式は難しくって、私もお兄ちゃんに何度も教えて貰った。





「これで数学は完璧。マリアちゃんのおかげでよくわかったよ」
「ならちょっと休憩しよう。私ジュース持ってくる」
「うん、ありがとう」

数学がようやく終わり紅茶がなくなったので、そう言って私は席を立つ。
それにお兄ちゃんと都の事も気になる。


「宿題ははかどってるか?」
「うん、数学は終わったから、後は英語だけ」
「そうか、偉いぞマリア。あと少し頑張れよ」
「うん」

キッチンに行くと料理するのを中断させたお兄ちゃんがやって来て、状況を話すといつものように私の頭をクチャクチャになぜ誉めてくれた。
そんな様子を都は微笑ましそうに見ている。

「本当に渓さんはマリアにとっては、優しいいい兄貴だよな?普段とまるで違う」
「そうか?まぁ確かにマリアは特別だが、俺はすべての女性に優しくしてるつもりだよ」
「あれは優しいんじゃなく、フットワークが軽いんだ。お前何股掛けてるんだ?」

何股?
都が分からないことを呆れぎみで問うと、お兄ちゃんはなぜか笑う。

「さあな。数えたことがないから知らない」
「・・・兄貴としては最高でも、男としては最低最悪だな」
「別にそれでもいいよ。俺はマリアだけ愛されてればいいんだから」
「・・・馬鹿らしい」
「何股って何?」
「マリアは知らなくてもいい。はい、アップルジュースとコップ二つ」

また都はお兄ちゃんの悪口を言って私はムッとするのに、お兄ちゃんはなんとも思ってないらしく笑ったまま。
だから私は気にしないことにして股掛けの意味を聞くけれど、教えてはくれないでアップルジュースの入れ物とコップ二つをくれる。
お兄ちゃんがそう言うのなら、私にはきっと関係がないこと。

「ありがとう」
「あ、そうだ。私が宿題を見てやるよ」
「必要ない。残念ながら、マリアの頭脳は都より上だよ。今は一年だけの飛び級だが、すでに大学レベルは備わってるよ」
「げっ、マジ?」

祟のいるリビングに戻ろうとするといきなり都がそう言ってきたけれど、お兄ちゃんは首を横に振りそれを止めた。
確かに宿題は困ってないから、見てもらわなくても大丈夫。
都はお兄ちゃんの手伝いだけをしてくれればいい。
それなのになんでわざわざ大変なことをやろうとするんだろうか?

「そう言うことだから、都は俺の手伝いを続行。どうしてそんなに嫌がる?」
「私の担当は掃除洗濯なんだから、料理なんかできなくてもいいんだ」
「嫁に行けないぞ?」
「いかないからいいんだ。私は私の天使と寄り添って一生生きていく」
「お前はレズか?相手が可愛そうだから、それは辞めとけ。なんなら俺が貰ってやっても良いんだぜ?」
「ふざけんな!!」

テンポよくああ言えばこう言う状態が続き、都は嫌がっているのにお兄ちゃんは凄く楽しそうだった。
とても楽しそうに二人の会話が弾んでいたようで、邪魔したら悪いと思い静にキッチンを出る。

私もあんな風に祟との会話が弾んだら、きっと今より楽しくなるのかも知れない。
だったら私もしてみたい。




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