夢幻なる絆
□藤原兄妹番外編
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マリア、理想の家族のあり方
「お兄ちゃん、おはよう。何してる?」
「おはようマリア。今日は良い天気だから祟も誘って、ピクニックに行こうと思ってな。これはお弁当だ」
朝起き着替えが終わり朝食を取りにダイニングに行くと、テーブルにはすでにホットケーキが用意されているのにお兄ちゃんはまだ何か作っていて問うと、お兄ちゃんは手を動かしたまま視線だけ私と合わせにこやかにそう教えてくれる。
ピクニック。
それはお弁当を持って自然がある場所へ遊びにいくこと。
私がやりたかった一つだ。
「なら私が祟を誘う」
「そうだな。マリアが誘えば喜ぶだろう。任せた」
「うん」
と私は言って携帯を取り、祟に電話をする。
本当に祟は、喜んでくれるのだろうか?
『あ、マリアちゃん、おはよう。こんな朝早くどうしたの?』
「おはよう祟。今日は天気が良いから、お兄ちゃんとピクニック行かない?」
『もちろん、行くよ。じゃぁ朝食がすんだら、すぐ行くね?』
「うん、待ってる」
祟は電話にすぐ出てくれて、トントン拍子で物事は決まって行く。
祟の声が更に明るくなるのが分かる。
お兄ちゃんの言った通りだ。
「祟、嬉しそうだった。なんでお兄ちゃんは分かった?」
「それはお兄ちゃんだからな。お弁当は作り終わったから、覚めないうちに朝食にしよう」
「うん、いただきます」
「はい、いただきます」
私の素朴な疑問はすぐに解決され、清々しい気持ちでいただきますを言い食事をする。
お兄ちゃんは私が知らないことを、なんでも知ってるし出来る。
自慢のお兄ちゃん。
ってそう言う時は言うと、祟は教えてくれた。
そしたら祟も私の知らないことをいろいろ教えてくれるから、自慢の・・・彼氏?って言うんだろうか?
「祟は私の自慢の彼氏?」
「なんだ突然?」
「お兄ちゃんは私の自慢のお兄ちゃんだから、祟は自慢の彼氏?」
「そうだな。お前が他人に自慢したいのなら、祟は自慢の彼氏だよ。ちょっと頼りないがな」
「うん」
疑問に思ったから聞いてみると、そうお兄ちゃんは答えて笑う。
私は祟を自慢したいから、それでいいんだ。
あとで祟に言って見よう。
私は祟のなんなんだろう?
「マリアちゃん、お手をどうぞ」
「ありがとう」
目的地に到着して車から降りようとした時祟はそう言いながら手を差し出すから、私は頷きその手を掴み車から降りる。
祟と手を繋ぐことは、まったく違和感がない。
「マリアちゃん、ピクニックは初めてだろう?ボクがいろいろ教えてあげるよ」
「うん。やっぱり祟は私の自慢の彼氏だ」
「え?」
優しく祟はこれからのことを言ってくれ私は今朝のことを伝えると、祟の顔が一瞬で真っ赤に染まり繋いだ手から熱さを感じる。
いきなり風邪でも引いた?
そしたらピクニックより家に帰って寝た方がいい。
「祟、体調が悪いんなら帰る?」
「アハハ、違うよ。祟はお前がいきなり恥ずかしくて嬉しいこと言うから、驚いて反応に困ってるだけ」
「私、おかしいこと言った?本当のことしか言ってない」
何かあったらいけないから祟に問うとお兄ちゃんは笑いそう教えてくれるけれど、私にはその意味がまったくわからなくて首をかしげて再び問う。
祟が心配だから聞いただけなのに、なぜそれが恥ずかしくて嬉しいこと?
それに嬉しいことなら、そうならないはず。
なのにそれを聞いたお兄ちゃんと祟までもが、おかしそうに涙を浮かべて笑いだす。
余計に分からない。
「マリアちゃんは、なにも変なこと言ってないよ。ありがとう。ボク嬉しいよ」
「そう?ならいいや」
なのに祟は笑顔のままそう言って、この話は多分終わった。
祟が元気になったのなら、それでいい。
「よしそれじゃぁ、ピクニック始めるぞ。歌を歌いながら、行こう?」
「え〜、歌?ボク達そんなガキじゃないよ」
「祟は歌わない?私は歌いたい・・・」
ピクニックは始まり前お兄ちゃんが教えてくれたことを言って私はその気でいたら、祟はつまらなさそうに文句を言いながら頬を膨らませる。
私達はまだガキなのに、祟は歌うのが好きじゃない?
でも歌は上手かった。
「あ〜マリアちゃん、そんな顔しないで。歌うからボクもちゃんと歌うからね」
「本当に?ありがとう祟。なら・・・」
「祟、何をしてる? お前は藤原?」
私の表情は変わらないのに祟には分かるらしく、今とは正反対のことを言って賛成してくれる。
嘘や偽りで言っている感じがなく私は嬉しくて歌う曲を言おうとしたら、知らない怖そう人がやって来て祟を怒ったかと思えばお兄ちゃんに気づき驚く。
私はとにかく怖いので、お兄ちゃんの後ろに隠れた。
この人は、二人の知り合い?
「何をそんなに恐い顔をしているんだい?俺達はピクニックに来たそれだけだ」
「そうだよ。ボクが友達と遊んじゃいけない理由でもあるわけ?」
「ピクニック?ゆきとの約束より藤原との約束を、優先すべきことなのか?」
「ああそうだよ。だってお姉ちゃん達と遊ぶよりずーと楽しいもん。それに瞬兄だって邪
魔者が一人減った方がいいだろう?」
お兄ちゃんだけが余裕の笑みで冷静さを保っているけれど、祟は怒りと悲しみが込み上げているようで見ていられなかった。
話からしてこの人は祟のお兄ちゃんなのに、なんで祟のことを大切にしてないんだろう?
祟が可愛そう・・・。
「祟、俺達の役目を忘れたんじゃないのか?」
「忘れてないよ。瞬兄は何も知らない癖に、偉そうなことを言わないでよね?ボクの方がよっぽど役目を果たしてる」
「それはどう言うことだ?」
「言葉通りの意味だよ。お姉ちゃんのことにしか興味のない瞬兄には一生分からないと思うよ」
「祟のお兄ちゃんなのに、どうして祟に意地悪する?」
「え、あなたは?」
祟とその人の口論は激しくなって行くようで私はついに我慢出来ず、祟を庇うように前に踏み出し口を挟み強い口調で問う。
するとその人は私を見るなり、もっと驚いた顔で私を見つめた。
なぜ?
「マリアちゃん、いいよ。瞬兄はいつもボクに対してそうなんだから」
「え・・・?お兄ちゃんって言うのは、弟妹に優しくするものじゃないの?祟のお兄ちゃんは偽物?」
「!!」
以前お兄ちゃんに教えられたこととはまったく異なることを祟は言い、私は信じられなくて戸惑うしかなかった。
私にとってお兄ちゃんは大切なたった一人の家族で、一番の理解者でもあり信じられる人。
お兄ちゃんがいたから、私はどんなに辛い毎日でも乗り越えられたんだと思う。
今もお兄ちゃんは私の傍で、怖い大人達から護ってくれている。
「確かに瞬兄は兄貴失格かもしれないね。実の弟のことよりも、使命のことしか頭にないんだもん」
「最低だなお前。家族は例え何があったとしても、全力で護るものだろう?それが例え世界を敵に回すとことになったとしても」
祟の言葉にお兄ちゃんはその人を呆れきった眼差して見下げ、自分の考えを言ったあと口元だけ微かに笑う。
これは何か深い意味があることなんだろうけれど、私にはなんのことだかさっぱり分からない。
でもこの人はやっぱり最低なんだ。
「それはどう言うことだ?」
「さぁ〜ね。それは自分で考えな。瞬は秀才だろう?」
「祟のお兄ちゃんのバカ。なんで祟のこといじめる?」
「・・・・・」
「行こう?祟」
「え、あうん」
お兄ちゃんにも恐い顔をしてくるから私はそう言い捨て 、祟の手を握り急いでその人から離れてピクニックを再開させる。
そんな最低なお兄ちゃんなら捨てて、私のお兄ちゃんが祟のお兄ちゃんになればいい。
その方が絶対に祟は幸せだ。
「瞬、すまないね。祟は俺が責任をとって、お前以上の兄になるよ。だからお前はお前の思った通りの、未来に進めばいいじゃん」
「・・・・・」
「お兄ちゃんもそんな奴ほっといて、早くピクニックの続きをしよう?」
「だな。ならもりのくまさんでも歌うか」
まだ何かをその人と話続けているお兄ちゃんを呼べば、お兄ちゃんはすぐにやって来てくれて提案通りに歌を歌う。
もりのくまさんはお兄ちゃんが教えてくれた可愛い曲。
「ありがとうマリアちゃん」
「え、ありがとう?」
丘にたどり着きお弁当を食べていると、祟から突然お礼を言われる。
でも私にはまったく心当たりがない。
なんだろう?
「瞬兄からボクを守ってくれて。嬉しかった」
「私は当然のことをしただけ。私あの人嫌い」
訳が分かってもお礼を言われる理由はなく、私はそう言葉を返し印象を告げる。
私の好きな人を苛める人は嫌い。
それに家族を大切にしない人も嫌い。
あの人はどっちも当てはまるから、もの凄く嫌いだ。
「マリア、そんなこと言ったら駄目だよ。あれでも一応祟の実の兄なんだぞ」
「だから嫌い。家族を大切にしない人なんて、信じられない」
「そうだよ。ボクだって瞬兄のことなんて、大嫌いなんだから」
「祟まで。まったくお前らは、しょうがないな」
いくらお兄ちゃんでもこればっかりは納得できずにいると祟も私と同じことを言って、お兄ちゃんは苦笑し呆れて私達の頭を軽く叩く。
そんなに怒ってないのが、何よりの証拠。
「ボク、二人に出会えて本当に良かったよ。これから宜しくね。マリアちゃん、渓兄」
「うん、私もよろしく」
「二人は俺の大切な妹弟だ。これからどんなことがあったとしても、俺がお前らを護るから大船に乗った気でいろよ」
って言って、最後にお兄ちゃんはまとめた。
祟は嬉しそうで、私も嬉しかった。
この時の私はまだこれから先起こる過酷な運命など何も知ることなく、今まで味わったこともない幸せで自由な毎日を過ごしていた。
ただその運命を知ったとしてもお兄ちゃんと祟が私の傍にいる限り、あの地獄でしかなかった毎日より幸せであることは間違いないだろう。