夢幻なる絆
□藤原兄妹番外編
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凪、初めてのおつかい?
「?お兄ちゃんの忘れ物?」
9月に入ったと言う余りにも暑いので帽子を被ってアイスを買いに行こうとすると、玄関の片隅に携帯が落ちているのに気づく。
その携帯は私のではないから、お兄ちゃんのだとすぐに分かった。
今日はお兄ちゃんはお仕事で、夕方まで返って来ない。
だから私は良い子でお留守番。
そう言えば今朝のお兄ちゃんは、柄にもなく慌てていた。
これはお仕事に必要な物なんだろうか?
だとしたら今頃困ってる?
届けに行った方がいい?
でも大学ってどこ?
様々な疑問が浮かんできて大学の場所が分からなかったけれど、私は調べてお兄ちゃんに忘れ物を届けにいくことにした。
大学の場所だったら、きっと祟が知っている。
『マリアちゃん?』
「誰?どうして私の名前を知ってる?」
早速祟に電話をしたのにがらがら声の男の人が出てきて私の名を呼ぶから、私は眉を細め不信に思い声を低くして問てみる。
私の知らない男の人。
『マリアちゃん、ひどい。ボク、祟だよ。風邪で喉をやられちゃったんだ』
「風邪?・・・ごめんなさい」
でもその人は祟で、悲しそうな声を出す。
まだ少し違和感がある物の、風邪ならばわかるので納得した。
『分かってくれればいいんだよ。それでどうしたの?』
「お兄ちゃんが携帯を忘れたから届けにいくから、大学がどこにあるか教えて」
『うん、いいよ。じゃぁすぐメールするね』
私のお願いを祟はいつものように快く引き受けてくれる。
本当は一緒に行ってもらいたかったけれど、風邪だから無理はさせられない。
こう言う時は確かピッタリの言葉があった。
「ありがとう。祟、お大事に。風邪早く直して」
『うん。ねぇマリアちゃん、今夜電話またしてくれる?マリアちゃんの声を聞くと、ボク元気になるからさ』
「分かった。おやすみなさいの電話する」
『ありがとう。じゃぁね』
普通だったら風邪で喉を痛めていたら電話なんて迷惑なのに、祟は違うらしく頼まれたから了解すると嬉しそうな声を出し電話は切れる。
私の声を聞いたら元気になる?
そんなはずないのに、変な祟。
祟のメールを頼りにして電車に乗り最寄の駅に到着して降りると、私はお兄ちゃんより少し若い男の人三人に話しかけられる。
「よう、彼女。オレらとアイスでも食べに行かないかい?」
「うん、行く」
ちょうどアイスが食べたかったので、深く考えずOKをだす。
変な感じがするけれど、殺意がなさそうだから大丈夫そう。
「彼女、のりがいいね。そこさ凄く美味しくておすすめの店なんだよね」
「それでアイス食べ終わったら、プールにいこうよ」
「プール?アイスは食べるけれど、プールはいかない」
だけど話が奇妙な展開になって、私はすぐに断りを入れる。
なんでそこでプールに行くことになるかわからないし、私はお兄ちゃんに携帯を届に大学へ行く。
プールには今度お兄ちゃんと祟の三人で行くと言ってるけれど、それまでに祟は風邪が治るだろうか?
「そんなこと言わないでさ。オレ達君のビキニ姿を見たいんだ」
「なんで?」
「なんでってそんなの君が可愛いからだよ。だからいいだろう?」
「いやだ。だったらアイスも食べない」
意味がまったくわからなくってこの人達と一緒にいたくなくなり、アイスも断り大学へ行こうとしたら腕を捕まれ阻止される。
今までの気配とはまるで違い少しだけ殺気を感じ、少しだけ恐怖を感じ怖くなった。
「そんなこと言うなよ。絶対に損はさせないからさ」
「俺達と楽しいことしようぜ?」
「行かないって言ったら行かない。だから離して」
「おい、止めろよ。その子嫌がってるだろう?」
「げっ都。やべぇ逃げるぞ」
懸命に逃れようとしていると第三者の声が聞こえたと思ったら、男の人達は一瞬にして顔を真っ青にさせすごい勢いで走り去っていく。
この速さならば、大会で良い成績が残せそうだ。
怖かったけれど、変な人達だった。
「大丈夫・・・お前は確か祟の彼女?」
「・・・都とか言う人・・・。助けてくれてありがとう」
そんなことを考えながら男の人達を見届けていると、私を心配する聞き覚えのある声が聞こえる。
その声も私を知っているようで視線を声のする方に合わせると、そこには先月の花火大会で会った祟の知り合いだった。
「気にしなくても良いよ。所であんた名前は?」
「私の名前は、マリア。藤原マリア」
「マリアね。それでマリアはどうして大学に?」
「お兄ちゃんの忘れ物を届けに行く」
「だったらちょうど私も大学に行く途中だから、ついでに連れてってやるよ」
「都、ありがとう」
都と言う人は意外にも優しくしてくれ頼んでいないのにそう言ってくれたので、ありがたくその好意を受け取ることにした。
祟の知り合いだから、きっと悪い人でも怖い人でもない。
「マリアは祟とどこで知り合ったんだ?あいつ恥ずかしがってか、教えてくれないんだよな」
「祟と私は、クラスメイト。祟は優しくて頼りになる」
「は、あいつかが?信じられない」
「?」
しばらく会話のないまま大学に辿り着いて校門をくぐると突然都から話しかけられて、自分では上手く答えられたと思ったのに驚かれてマジマジ見つめられてしまう。
なんでそう言うのか分からなくて、少しだけ不安になる。
どうしてそんな顔をする?
私にとって祟はすごく頼りになる彼氏なのに・・・。
「祟もやる時はやるんだな?こんなに可愛い彼女に慕われるとはね。そう言えばマリアの兄貴はなんて言うんだ?」
「・・・お兄ちゃんの名前は、藤原湛渓。この大学で物理教師をしている」
「お前あんなたらしの妹なのか?」
祟のことはもういいのか今度はお兄ちゃんのことを聞かれて、今度もちゃんと答えたのにまた信じてくれず声を上げ不思議がる。
たらしって言う意味はよく分からないけれど、なんでだろういい気はしない。
都と私は相性が悪い?
・・・一緒にいたくない。
「お兄ちゃんは私の自慢のお兄ちゃん。悪く言わないで」
「え、あごめん・・・」
「もういい。私一人で」
「あれ、マリア?」
「あ、お兄ちゃん」
そう思って私は強く都に訴えると都は驚くのを辞め謝って来たけれど、私は許さずそう言い行こうとしたらお兄ちゃんの声が私を呼ぶ。
声をする方に急いで振り向くと、そこにはやっぱりお兄ちゃんがいた。
やっと会えた。
「どうしたんだ?」
「お兄ちゃんの忘れ物を届けに来た。はい、これ」
「ありがとうな。ずっと探してたんだよ」
「うん!!」
お兄ちゃんに携帯を渡すとお兄ちゃんはすごく喜んでくれて、私の頭をクチャクチャになぜてくれる。
私はようやくお兄ちゃんの役に立てたんだと思うと、なんだか嬉しくて心が弾むようだった。
これからもっともっとお兄ちゃんの役に立ちたい。
「ん、都どうしたんだ?呆然と立ち尽くしたりして」
「お前ってシスコンだったんだな。まぁこんな兄貴思いの可愛い妹なら無理もないが」
「シスコン。そうかもな。俺はマリアの幸せのためなら、出来る限りのことをするつもりだよ」
お兄ちゃんの言う通り呆然と立ち尽くしている都に訳の分からない問いを聞かれ、お兄ちゃんは笑顔で肯定して私のことも見る。
全然困っていないいつもと変わらないお兄ちゃんに、都が変なことを言ってないって分かった。
でもシスコンって、なんだろう?
後で祟に聞いてみよう。
「・・・マリアに恋人が出来たら、あらゆる意味で大変だな」
「それは祟のことか?それは俺が認めているから心配ない。・・・あいつならマリアを幸せにしてくれるって、俺は確信しているからな」
「マジ?それは見当違いなんじゃ・・・」
「俺はオヤジ譲りで見る目は確かだよ」
「お兄ちゃん、私お腹空いた。お昼にしよう」
どうして都は知り合いの祟を見くびれるか不思議に思いながらもやっぱりもう聞きたくなくて、お兄ちゃんに関係ない話を切り出し今度こそ別れようと試みる。
でもお腹が空いたのは事実で、今は丁度お昼時だ。
「マリア、都はただ自分のより先に弟分である祟に彼女が出来たんで、ひがんでいるだけだよ」
「そうなの?」
「ひがんでなんかないよ。なんで私が祟をひがまないといけないんだ?」
「そんなの決まってるだろう?年下の先を越されたから。なんなら俺がなっても良いんだぜ?な俺の女になれよ」
お兄ちゃんは私とは違う考えを持ってそう教えてくれる中都はそれに対してすぐに全否定したけれど、更なるお兄ちゃんの言葉に都を抱き寄せると都の顔は真っ赤に染まり一瞬言葉をなくす。
それはお兄ちゃんの言う通り、都はただ祟をひがんでいるだけだろうか?
そう言う感情はまだよく分からない。
でも
「そ、そんな訳ねぇだろう。誰がお前のような男と付き合うか!!大体私には天使がいるから興味ないんだよ」
とけたたましい怒り狂った声で再び全否定しながらお兄ちゃんをポカスカ殴まくり、そのうち嵐のようにどこかに走り去って行く。
さっきの人達よりも速い。
そんな変な都をお兄ちゃんはクスクスとおかしそうに見つめていた。
・・・お兄ちゃん?