夢幻なる絆

□10.若き御家老の弱点
7ページ/28ページ




「あの小松様、わざわざこんな所までお越しありがとうございます。おそばでお顔を拝見できまして嬉しゅうございます」
「こちらこそ、お嬢さんのような方に顔を覚えていただいているとは光栄です」
「小松様、お茶をどうぞ」
「これはどうも」
「あ〜あんたずるい」

お店の若い女の子二人が一応小声で騒ぎながら帯刀さんと楽しげに話しかければ、まんざらではないご様子で柔らかな笑みを浮かばせ受け答えをする。
たちまち女の子二人の目はハートになり、恋する乙女になった。

女性の扱いは相変わらず手慣れているようだけれど、私としては面白くなくっていらつく。
それは間違えなく嫉妬である。
こんな些細なことで嫉妬する私は、本当に心が狭い。
でもでもこれは私へのご褒美なんだから、私をほっとくのはどうかと思う
嫉妬するのは当然だよね?

「おい帯刀、凪のご機嫌が斜めになってるぞ?」
「あれ龍馬?」
「まったく私の妻は可愛らしいね。そんなに私を束縛したいの?いいよしても」

そこへなぜか龍馬がやってきて私の不機嫌であることを帯刀さんに告げると、待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべ満足そうに誘惑する。
つまりいつものわざとか。
嫉妬心が一気に失せた。

「そのうち夜道で襲われも知りませんよ」
「だな。まぁそうなったら屍はちゃんと拾ってやるから安心しろ」
「冗談はやめてくれる?こんな問題児の妻を残して死ねる訳ないでしょ?」
「確かに。凪を抑えられるのは、帯刀だけだからな」

呆れて嫌みを言い龍馬も加勢してくれたはずが、帯刀さんの反撃に龍馬は裏切り私を素でののす。
問題児さえなければ嬉しいはずなのに、まったく嬉しくない。
しかも事実だから、凹むしかなかった。

「あんた達、邪魔するんじゃないよ」
「はい。では小松様、どうぞごゆっくりしていって下さい」
「ありがとう」
「龍馬さんは何にします」
「羊羹と抹茶を頼む」
「分かりました」

おばさんの鶴の一声と言うべきもので、女性達は愛想よく龍馬の注文を取っていなくなる。
女性に名前を呼ばれるとは、龍馬はここの常連らしい。

「所で凪、化粧をしてるみたいだが一体どうしたんだ?」

話は一気に変わり龍馬は、私をマジマジ見つめながらそう問う。
化粧なんか滅多にしない人だから、そう問われても無理もない。

「今薩摩藩に私が帯刀さんの妻だと言うことを報告してきたんだ。十二単の正装してね」
「なるほどな。それで凪はドジを踏まずにちゃんと出来たのか?」
「珍しくできたよ。まぁ例えどんな失態を犯そうが、私の最愛の妻であることは変わりないけれどね」
「はいはい、分かりました。聞いた俺が馬鹿でした」

龍馬のわざとの意地悪はあえなく撃沈に終わり、呆れながら心のこもってない謝罪する。

こっちも相変わらずの良く聞く会話で、龍馬も懲りない奴だ。
帯刀さんに勝てるはずないのにね。
それとも分かりきってもなお言っているとか?

「はい、お待ちどうさま。羊羹とわらび餅とお団子とくずきりに抹茶二つ」
「わぁ、美味しそう」

待ちに待った注文の品が届き、私の顔に自然と笑みが零れた。
匂いからして食欲がそそられる。

ダイエットは明日からにして、今は美味しく頂くことにしよう。
そうしないと食べ物の神様に申し訳ないし、何より作ってくれたおばちゃんの方に申し訳ない。

そしてまずはすべて半分ずつにして取り皿によそい、帯刀さんの目の前に置く。

「はい、これは帯刀さんの分」
「ありがとう。では食べようか?」
「はい、いただきます。わぁ美味しい」

帯刀さんの合図でいただきますをしてから、羊羹を口の中へと頬張るとあっと言う間に広がるお上品な甘さに現を抜かす。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ