夢幻なる絆

□10.若き御家老の弱点
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それは熊野の男なんだから仕方がないよ。

どうしてそんなことが言えるんだろう?
そんなことお兄ちゃんが言うなんて思わなかったから、余計悲しくなって涙が溢れて止まらない。


「マリア、入ってもいいか?」
「駄目、お兄ちゃんの顔なんて見たくない」
「そんなこと言わないでくれよ。さっきは俺が全部悪かった。反省して考え方を改めるから」
「・・・本当に?」

ドアの向こうから困り果てたお兄ちゃんの声が聞こえるが怒っている私はそれを強く拒否すると、お兄ちゃんの声は辛そうな声になりすべてを謝罪して約束をしてくれる。
今まで聞いたことのない声に真剣さは伝わりでも、簡単には信じられず疑うかのようにもう一度問う。

お兄ちゃんは私に嘘を付かないけれど、嘘を付くのが上手くて見抜くことが出来ない。
だからもしかしたら嘘を付いているかも知れない。
今なら当然のように疑ってしまう。

「本当だ。だから開けてくれ」
「・・・うん、分かった」

あまりにも必死だったため私は信じてドアをゆっくり開ければ、お兄ちゃんは土下座をしていた。
そこまで必死だったんだ。

「ありがとうマリア。約束は守るよ」
「絶対だよ」
「それにしてもマリアは母上に似たんだな」
「どうして?」
「母上もマリアと同じで父上を一途に愛してたからな。父上も母上に一途だったけれど、母上に出会う前は相当だったらしい」

私が知らない両親の話をしてくれ、私は興味津々となって親身に聞く。
いろんな話を聞くのが好きだった。

母さんも私と同じで父さんだけ。
父さんも母さんだけ。
良かった。

「二人は凪達のように仲の良い夫婦だった?」
「それ以上だよ。尊敬できる立派な両親だ。末っ子のお前のことを特に溺愛していたよ。お前は俺達家族のお姫様だった。今でも俺の可愛いお姫様だけどな」
「そうなんだ」

ふとした疑問の答えは思った以上でお兄ちゃんも嬉しそうだから、私までなんだか嬉しくなる。

私は覚えていないけれど、幼い私は幸せだったんだと思う。
父さんがいて母さんがいてお兄ちゃんとお姉ちゃんと小さいお兄ちゃんもいたらしい。
そんな家族に会ってみたい。

「写真はない?」
「ごめんな。俺達が生まれた世界には写真がなかったんだ。でも父上と母上の写真ならある」

会いたいなんていったらお兄ちゃんが嫌な思いをするから写真のことを聞くと、少しお兄ちゃんは悲しげに答えたあとそうも言って懐からお財布を取りだし見せてくれた。
お兄ちゃんと似ている少年と私と少し似ている少女が幸せそうな笑顔を浮かべて写っている。

「この二人が父さんと母さん?」
「そうだよ。二人が結婚する前の写真だ。お前にやるよ」
「良いの?」
「ああ、俺には思い出が沢山あるからいいんだ」
「ありがとうお兄ちゃん」

初めて見る二人の写真がなぜだかたまらなく愛しくなり見ていると、お兄ちゃんはそう言って快く私に写真をくれる。
私は嬉しくて写真を握り締めるけれど、それと同時に寂しくもなった。

沢山の思い出。
私にもきっとあるはずなのに、何一つ覚えていない。
なんで私は何一つ覚えてないんだろう?
お兄ちゃんは小さかったからって言うけれど、それでも何か一つだけでも思い出が欲しかった。

「マリア、俺はマリアが羨ましいよ」
「・・・え?」
「一途に誰か一人だけを愛せるなんてな。俺にはまだそう言う人は現れ・・・いいやきっと現れることはないだろう」

無い物ねだりなんかしたらいけないのに少なからずそれを望んでいると、お兄ちゃんは
私を強く抱きしめ意味深なことを言い続け私の額にキスをする。
最初だけ聞き取れて後は聞き取れず、でも嫌な胸騒ぎがした。

この嫌な胸騒ぎは一体何?




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