夢幻なる縁

□3章 四神の作り方
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「三人ともお帰りなさい」
「松さん、ただいま。凪さんがどこにいるか知ってますか?」
「奥様なら台所だと思います」
「ありがとうございます」

 いつも通りの松さんに迎えられて今では違和感がない言葉を交わす。

 帆波先輩の家に下宿するようになりまだ一ヶ月とちょっとなのに居心地がよくて、すっかり我が家に帰って来たって感じがする。
 ダリウスの家もも居心地は良かったけれど、この家は当たり前だけど家庭がある家。
 おばあちゃんっ子の私には凪さんがいるから余計にそう思えるんだと思う。

 松さんにお礼を言って三人で台所へと急ぐ。

「凪さん、ただいま。手伝います」
「私も」
「凪様、何を作っているのでしょうか?」
「三人ともお帰りなさい。あげ豆腐ときのこの混ぜご飯。後アップルパイ」
「? それって帆波の好きなものばかりですね?」

 今夜の献立を聞き一気にお腹が空き待ち遠しくなるけれど、千代が不思議そうに問うのを聞き私も気づき不思議になる。

 帆波先輩は藤堂さんとデートだから夕食は入らないはず。
 そう言えば凪さんが夕飯を作るのは珍しい。

「帆波、尚哉くんと喧嘩したらしくて落ち込んで帰って来たから、元気づけようと思ってね?」
「喧嘩ですか?」
「そう。二人はいつの間にか喧嘩が出来るぐらいに進展してるのね」

 ちょっと複雑な表情で答えられ私は何て言っていいのか分からなかったのに、千代はなぜか微笑みながら理解しがたい返答をした。
 萬は私より気まずく思ったのか表情が暗くなり、半端ではないほど再び落ち込む。

 喧嘩することは恋人にとって良いことなのかな?
 私は好きな人と喧嘩なんてしたくない。

「確かにお互い本音をぶつけ合うのは良いことかもね? 千代ちゃんは彼氏と喧嘩をしたことあるの?」
「はい。なかなか進さんがはっきりしないからつい怒ってしまって、喧嘩と言うか一方的かもしれませんが」
「千代ちゃんとこも大変だね。まぁ私も八割がた似たような感じだけどね」

 私にはまったく理解できないことなのに凪さんには分かるらしく、苦笑しながらも意気投合している。
 この前から恋ばなトークが少し羨ましく思っていたけれども、聞いている限りだと恋愛とは面倒くさいと思ってしまう。
 そう思うのはまだ私には恋愛は早いって証拠?


「そうそう。凪さん、さっき梓ったらコハクさんが帆波のこと好きだって言ったら、面白くなさそうな表情をしてたんですよ」
「え?」
「え、そうなの? でも大丈夫よ。帆波は尚哉くん一筋だから、善ちゃんのことは友達としか思ってないから」
「そう言うことじゃないです」

 そう思っている矢先急に私の話題になり勘違いされるけれど、確かに私はコハクが帆波先輩を好きだったと言った時嫌な気持ちになった。
 でもそれは……。
 それは嫉妬?
 気づかなかっただけで私は………恋をしてる?
 相手はコハク?
 本当に?

「あら、この子無自覚だったのね?」
「そうみたいね? これはしばらく時間が必要みたいよ」

千代と凪さん微笑ましそうに私を見られるのがなんだか恥ずかしくなり、黙ってその場から逃げるように部屋から出て行く。



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