夢幻なる絆
□番外編4
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凪、豚肉が食べたい。
「帯刀さん、お茶を持ってきました」
「ああ、ありがとう」
頃合いを見て政務中の帯刀さんにお茶を持っていくと、いつも以上に難しい顔をしている帯刀さんが頭を抱えていた。
それでも私が来たのに気づけば、視線を私に変えそう言いながらお茶を飲む。
ひょっとして邪魔だった?
「私、戻りますね」
「駄目。こう言う時に夕凪が必要なんだよ。ちゃんと私を癒しなさい」
「どうしたんですか?」
政務の邪魔だけはしたくなかったからそう言い部屋を出ようとすると、腕を捕まれ抱き寄せられ強く言われてしまった。
邪魔ではないことは分かったけれど、一体何があったのだろうか?
帯刀さんの顔をのぞきこめば、若干疲れている感じもする。
「実は夕凪に食べさせたいと思って琉球の豚肉を手配したのだけれど、一橋公の耳に入ってしまったらしく分けてくれと言われてね 」
「それは楽しみです。分けることは出来ないんですか?」
真剣に悩みを打ち明けられたわりには簡単すぎる解決方法があって、きょとんとしてそれを言いながら首をかしげる。
琉球と言えば、沖縄のこと。
一橋公が欲しがるってことは、美味しいのはお墨付き。
何よりも帯刀さんが私のためにわざわざ取り寄せてくれたんだもんね。
今夜は焼き肉?
それとも豚すき?
あ、しょうが焼きも捨てがたい。
すると帯刀さんは深いため息をつき肩を落とす。
まるで私の答えが予想済みかのような反応。
「夕凪は本当に馬鹿だね。一橋公の分けてくれとはすべてくれと言うことなの」
「全部・・・。なら私の焼き肉と豚すきそれにしょうが焼きは?」
「残念だけど、諦めなさい」
「そそんな・・・。おのれ一橋公許しまじぃ〜!!」
楽しく今夜の献立を考える中予想もしない絶望的な答えが返ってきて、私は怒りと悲しみの感情を抱きつい言葉に出してしまう。
でもそれは帯刀さんの言うように、当たり前なことかもしれない。
相手は、あの一橋公だもん。
「そんなに悲しまないの。大久保に文を送って、今後の対策を考えてもらうから」
「ならこの際嫌み込みで、生きた豚一頭献上したらどうですか?」
しかしやっぱり悔しくて、分かりやすい皮肉を吐いてしまった。
そんなことしたら薩摩藩が危うくなるのは目に見えている。
でも今の私はショックが大きくて、まともに考えられない。
それだけ食べ物の恨みは恐ろしい。
「生きた豚ね。だったら我が家で子豚を飼って、育ててみる?」
「え?」
「いくら一橋公でも、生きた豚を分けてくれとは言わないだろうからね?」
なのに帯刀さんは変に受け取り、私の食べ物の恨みは一気に消える。
我が家で子豚を飼う?
そして食べ頃になるまで育てる。
餌をあげて、一緒に戯れて・・・。
「無理です。愛情込めて育てた豚さんを食べることなんて出来ません」
そんなことしたら食用豚がペットの豚さんに変わってしまうため、首を激しく横に振り即効却下する。
「夕凪は情が熱いね。そういう夕凪も、私は愛してるんだよ」
「帯刀さん・・・」
そんな私の反応に帯刀さんはご満悦のようで、ようやく私の大好きな笑みを見せてくれ耳元で甘く囁かれた。
もうこうされると私の頭の中は帯刀さんだけになり、それ意外のことはどうでもよくなってしまう。
そして自然と私達の唇は重なりあうのだった。