夢幻なる絆

□小松家育児日記
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1870年、私の世界での小松帯刀はこの年の8月に大阪の自宅にて病死したと言われている。
しかし私の夫の小松帯刀は12月になった今も元気に健在。

時代は私の知っている時代の流れで明治へと代わり、帯刀さんは新政府の総裁局顧問になっていた。

新政府発足当初から国民のための政治を掲げ働きかけている甲斐があり、国民の人気はやうなぎ登りで総理大臣になるかも知れない。
毎日忙しそうにしているけれど、私達家族の事も忘れないでいてくれている。
子供達にとっては良い父親で、私にとっては前と変わらず良き夫だ。
ただ大好きなパパだから起こってしまうトラブルも多々ある。


「なんでパパの誕生日はホテルでパーティーをやるの?」
「パパはみんなから慕われているから、みんながお祝いしたいんだよ」
「みっちゃん、パーティー嫌い」
「そんなこと言わないの。パパ泣いちゃうよ」

五つになった美岬は今回もまたご機嫌斜めで、頬を膨らましそっぽを向く。
私も正直完璧な妻を演じないといけないから苦手だけれど、帯刀さんの立場を考えるとしかたがないこと。

「だってみっちゃんとママと清ちゃんと裕ちゃんの誕生日はおうちでやるから一緒にいられるだけれど、パーティーはパパは忙しそうにしてるんだもん。パパはみっちゃん達の事嫌いなの?」

しかし美岬に理解できるはず訳を話し、今度は今にも泣きそうな顔になり私を見つめる。
こうなると美岬は聞き分けなく騒ぎを起こすから、返答は良く考えないといけない。
さすが私の娘。
ちなみに清ちゃんと裕ちゃんとは息子達の名前だ。

「美岬、どうしたの?せっかくの可愛い顔が」
「パパなんて大嫌い。みっちゃんはパーティーなんか出ないもん」
「ちょっと美岬待ちなさい。って帯刀さん!?」

そこに何も知らない帯刀さんが裕を抱っこしたままやって来て美岬を心配するけれど、美岬は強い口調で禁句を言い捨てすごい早さで部屋を飛び出していく。
こうなるともう手遅れに近く後を追おうとしたけれど、帯刀さんは巨大なショックを受け溶けてなくなる勢いだ。
最愛の娘に初めて大嫌いと誕生日に言われたとくればそうなるか。

「………。私は美岬に一体何をしたんだ?」
「帯刀さん、しっかりして下さい。美岬は本気で言ったんじゃないですから」

すでに壊れかけている帯刀さんを呼び掛けるけれどあまり効果がなく裕を落としそうになり、私が間一髪で救い出すがそれでも裕はびっくりして泣き出す。

「パパが怖いよ」
「裕、大丈夫。パパは少し壊れただけだから」

自分でもひどい言い方だとは思いつつ、帯刀さんが悪いので気にしない。
裕を落としたらそれこそ大変。
だけど可愛そうだから美岬が怒った理由を教えよう。

「ママ、どうしたの?お姉ちゃんも裕もパパも泣いてる?」
「き清直?なんなのよそれは?」

清直まで心配そうにやってくるのだけれど、泥だらけで私は悲鳴をあげる。
パーティーに行く新しい服に着せたばかりだった。

「あのね。パパにあげるお団子を作ったの」
「そうじゃなくって、ママとの約束忘れたの?」
「?あ。パパの誕生日パーティーに行くから、新しいお洋服は汚さない」

無邪気に答えながらツルツルの砂団子を見せてくれるけれど、これは叱るべき事なので約束を思い出してもらう。
完全に忘れていたらしく思い出すとシュンと小さくなり悲しげな表情を見せる。
清直は美岬とは違い素直で聞き分けの良い子だけれど、何かに夢中になるとそれしか見えなくなってしまう。
それだけに思い出させると反省するから、これ以上は怒りにくい。

「奥様、いかがなさいました………これはまた。清お坊っちゃま、お風呂場に行きましょう?」
「………うん。ママ、ごめんなさい」

私の悲鳴を聞き駆けつけてくれた梅さんは、清直に優しく言って手を握りお風呂場に連れていく。
清直はやっぱり反省して、半べそをかき私に謝る。
そんな清直が可愛いと母親失格の感情を抱きながら、まだ不幸のどん底にいる帯刀さんの傍に行く。

「帯刀さん、美岬は誕生日は一緒にいられる家族でやりたいそうですよ」
「……え? 」
「来年からは誕生日パーティーは前日に出来ませんか?」
「そうだね。そのように手配する」
「はい、よろしくお願いします」

笑顔で理由を話し提案してみれば、検討するではなく確定にする辺り帯刀さんらしい。
これで美岬も機嫌が少しだけ直ると思う。
私も誕生日パーティーより家族で祝える方がいい。

「夕凪は、妻としても母親としてもいつの間にか立派に成長したね?」
「ななんですかいきなり?私なんてまだまだですよ。相変わらずドジだし、どこか抜けてますよ?」
「それは夕凪の個性だから仕方がないでしょ?それまでなくなってしまったら、私を必要としなくなるんじゃないの?」
「何をバカなこと言っているんですか?私には何があったとしても、帯刀さんが絶対に必要なんです」

やっぱり帯刀さんの調子がおかしいらしく、普段なら絶対に言わないことを真顔で言ってくる。
成長してると言われるのは嬉しいけれど、そんなこと言わないで欲しい。
もしそうだとしたら私は成長しないダメ人間のままでいい。

「そんな顔しなくても分かったから。愛してる夕凪」
「私もです」

裕を抱いているにも関わらず、私達は躊躇いもなくキスを交わす。
そんなに頻繁でもないけれどこう言うことは結構あったりするから、子供達はそれが普通になっているようで特に触れることがない。
もう少し大きくなったら自粛しようとは思っている。

「では美岬と話し合ってくるよ」
「私も行きますね」

一人で行かせるのは何かと危険なので、付いていくことにした。





「美岬、そんなに小松帯刀が嫌いなら、我が父になってやろうか?」
「抜け駆けはずるいぞ。我も志願しよう」
「シロ、アオ。何をバカなこと言っているのですか?」
「私はみっちゃんと結婚するから、父親にはならない」
「クロは黙ってなさい。しかもそれは今と関係ないですよ」

美岬の回りには四神達が集まっていて何やら妙な展開になっていて、シュウちゃんの顔は青ざめ三神の暴走を抑えるのに大変そう。
しかもクロちゃんだけが話の論点がずれている。
あれで本人は至って真面目で美岬もクロちゃんのお嫁さんになると言い出している。

初めはやっぱりパパと結婚すると言い出したんだけれど
パパと結婚したら、ママはママじゃなくなるよ。
って教えたら大泣きして騒ぎになった。
その時は帯刀さんの雷が直撃したっけぇ?

だから恐る恐る帯刀さんを見上げると、いつもと違いまた落ち込んでいる。
今は自信がないんだと思う。

「いや。みっちゃんのパパはパパだけだもん。ママからパパを取ったらダメ」

しかし美岬は迷うことなく大声を上げ、首を大きく横に振り断固拒否る
大嫌いはその場の勢いと言う私とよく似た状況だったと言うことに、心配することより苦笑してしまう。

脳みそと顔とドジ以外は完全に私をコピーしてるんだよね?
その三点が似ないですんだのは良かったけど。

「だが美岬は小松帯刀の事が大嫌いじゃないのか?」
「そうだけど違う。みっちゃん本当はパパも大好きなんだもん。お仕事も忙しいこともわかるけれど、でも誕生日は家族で遊びたい」
「だったら直接小松帯刀に言えば良いのです。あなたの頼みなら聞いてくれますよ」

美岬が怒っている理由を悲しげに呟くと、シュウちゃんは美岬の髪をなぜながら優しく助言する。

やっぱりシュウちゃんには悪いけれど、こう言うところ母親のような暖かさを持ってるよね?
叱るときは適切に叱ってくれる。
そんな微笑ましい光景に帯刀さんもようやくホッと安心したらしく、表情が安らぎ美岬の傍に行き視線を合わせる。

「美岬、すまない。来年からは家族だけでお祝いをすることにする」
「本当に?」
「ああ。約束」
「うん!!ゆびきりのやくそくする」

帯刀さんの謝罪と約束に美岬は満天の笑みを浮かべ、差し出された小指を絡ませゆびきりを交わす。

……可愛らしいな。

「シュウちゃん、ありがとう」
「いえいえこのぐらいのことならたいしたことありませんよ。それにしてもアオとシロはいつになったら凪の幸せを見守れるようになるんでしょうね?」
『うっ……』
「我はちゃんと見守ってる」
「クロは別の意味でよく考えなさい。本当に美岬と結婚したいのですか?」
「フム。みっちゃんが大人になっても我を選んでくれるのなら、結婚すると決めている」

どうにか無事に父と娘は仲直りしている中、シュウちゃんは三神にお灸を据える。
クロちゃんとシロちゃんは気まずそうに口を紡ぐが、クロちゃんだけは違いしかも意外にも考えがあった。
まぁそこまで考えてるんなら、しばらく様子見かな?



なんだかんだでどうにか支度が終わり外に出ると、すっかりいつもどおりにの元気いっぱいに戻った子供達は門の前に並び

『パパ、お誕生日おめでとう。これからもよろしくお願いします』

と可愛らしい声をハモらせた後、ノックダウン気味の帯刀さんに抱きつくのであった。



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