夢幻なる絆

□藤原兄妹番外編
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渓、妹の初恋を見守る。



それは俺とマリアが母上の世界にやってきて、半年経ったGWのこと。
母上の叔父叔母に拾われた俺達は、母上が住んでいた鎌倉の家で平穏な日々を過ごしていた。

「お兄ちゃん、早く早く」
「こらマリア、あんまりはしゃぐと転けるぞ」

はしゃぎ先行くマリアを追いかけながら、俺はそう警告するが分かってないだろう。

こっちにやって来てしばらくは両親を恋しがり落ち込んでいたマリアだったが、幼稚園に行くようになりいつのまにか以前のように笑顔がたえないおてんば娘に戻っていた。
俺も二人の好意で小学校に通うようになり、徐々にこっちの世界の暮らしも慣れ始めてきている。
ただこっちの世界の同世代は、揃いも揃い餓鬼過ぎるのが悩みの種。
それは国立の中学に進学しても変わらなかった。
いずれにしろ白龍がいつ俺達を迎えに来てくれるか分からない以上、俺がしっかりしてマリアの笑顔を護るため早く大人にならなければならない。


「どうして泣いてるの?ぽんぽんが痛いの?」
「どうした?」

何かを見つけたマリアは突然しゃがみこみ、心配そうに何かに話しかけだす。
追い付き視線を下に向ければ、マリアぐらいの少年がうずくまり泣いている。

「ボクみんなとはぐれちゃったんだ。・・・瞬兄、お姉ちゃん」
「迷子だな?君名前は?」
「きりゅうそう。5さい」

少年は俺の問いにちゃんと答え、泣いたまま俺に視線を合わせた。
なんだか違和感を感じたが、それがなんだか分からない。
少なくても普通の少年ではない。

「私はふじわらマリア。4さい」
「俺は渓。マリアの兄だ。迷子なら迷子センターまで連れて行ってやるよ」

マリアは楽しそうに名を名乗るので俺も名を名乗り、そうを近くの迷子センターまで連れていくことにした。

しかし

「私とお兄ちゃんも一緒にそうくんの家族を探してあげる」
「え?」
「本当に探してくれるの?」
「うん。だからもう泣かないで。男の子でしょ?」
「分かった。ありがとう」

マリアは何を思ったのかそう言いだし祟に手を差しのべると、祟はピタッと泣き止み笑顔に変わらり手をつかむ。

マリアは優しいから、ほっとけないんだな。
だったら俺も一肌脱ぐしかないか。

「なら祟、どこではぐれたんだ?」
「さっきのパレードで、靴が脱げちゃったから取りに行ってたら、みんないなくなっちゃった」
「だったら家族は兄姉以外にいるか?」
「他はおじさんとおばさん。それから都姉」
「つまり保護者が二人で兄が一人の姉が二人か」

あまり期待はせず祟に詳しいことを聞くと、それなりの答えが返ってくる。
両親がいないことに疑問を抱いたが、マリアの前で出ないだけよかった。
泣くからな。

「私はお兄ちゃんと二人出来たんだ」
「そうなんだ。ねぇマリアちゃんメリーゴーランドに乗ろうよ」
「うん、乗る」
「おい、家族を探すんだろう?」
「メリーゴーランドに乗ってから。いこうマリアちゃん」
「うん」


たった今まであんなに家族を恋しがっていた祟が予想外に遊ぶことを選択してしまい、その気になったマリアと一緒にメリーゴーランドへと駆け出す。




「俺は一体何をしてるんだろうな?」
「お兄ちゃ〜ん」

子供用ゴーカートで仲良く遊ぶマリアと祟の姿を見ながら、俺は深いため息を付き自問自答する。
何も知らないマリアは無邪気に笑いたまに手を振り、俺はその度手を振り返す。
その姿は愛らしいため、何も言えないイモコンの俺。

祟の家族捜しをするはずが、なぜかマリアと祟は一時間経過した今でも遊び続けている。
よほど二人の相性が良かったらしく、すっかり仲良しになった。
この分だと祟はすでに当初の目的を忘れているのだろう。
子供の思考回路は単純だから、なんでも楽しいことを優先する。
しかしこれで良いはずがない。

「マリアちゃん、今度は汽車に乗ろうよ」
「うん」
「いけません。祟の家族を探します」

心を鬼にして俺は戻ってきてまだ遊ぼうとする二人の間に割り込み、今やるべき事を伝えた。
当然家族は死ぬほど心配して探し回っていると思う。

「え〜、ボクもっとマリアちゃんと遊びたい」
「私も。私そうくんのお嫁さんになるから、ずーと一緒に遊ぶの」
「そうだよ。ボクマリアちゃんと結婚するって決めたんだ」
「結婚?そんなの十年早い」

いつの間にそう言うことになってしまったのか二人は子供なりに本気で言い合い、俺は驚き反射的に突っ込んでしまった。
しかし十年後でもまだ結婚は早い。

俺と結婚すると言っていて幼稚園に通って男の友達も多くいるのにも変わらなかったマリアなのに、少し遊んだだけの祟と結婚するなんて一体どう言う風の吹き回しだろうか?
まさかこれがマリアの初恋なのか?
確かに俺の初恋も四歳の時で一緒に住んでいた明日香姉だと母上が言っていたけれども、俺の場合は一緒に住んでいたからであっていきなりではなく言わば必然。

「だったら十年経ったら結婚しようね」
「うん。じゃぁ指切りしよう」
『指切りげんまん嘘付いたら、針千本飲ます』

意外にも俺の言うことを素直に聞いた二人は、今度はそう言い合い元気良くゆびきりをする。
その約束が叶うことはおそらくないとしても、兄としてはこの妹の小さな初恋を良い想い出としていつまでも覚えていて欲しい。

「二人は聞き分けが良いな。じゃぁそんなお利口さんの二人に俺が今日の記念に何か買ってやるよ」
「本当、お兄ちゃん大好き」
「ありがとう。渓お兄ちゃん」

俺が出来ることを二人に言うと、二人は俺に飛びつきますますご機嫌になる。
そんな無邪気すぎる二人が、可愛らしい。





「そうくん、どれにする?」
「そうだな。マリアちゃんはどれが良い?」
「え〜とね。これがいい。二つ合わせるとハートになる奴」
「いいねこれ」

ワゴンで一生懸命に探す二人はようやく気に入った物を見つけたと思い気や、それは子供出しからぬ恋人達が買っているキーホルダーだった。
気分はすっかり恋人同士。

「祟?」
「え、あ瞬兄」
「祟くん、探したんだよ」
「お姉ちゃんも。迎えに来てくれたんだね」

そこへ祟の家族だろうか女の子と俺ぐらいの少年。それから大人二人と女の子が後からやって来る。
当たり前だが全員心配している表情をしており、当事者の祟はケロリとしていた。
まるで友達の家で遊んでいる所に迎えに来た感じだ。

「良かったな祟」
「うん、みんな紹介するね。ボクの未来のお嫁さんのマリアちゃんとお兄ちゃん。一緒に遊んでくれたんだ」
「それは祟くんがお世話になりました」
「いいえ、こちらこそ。妹も祟くんが気に入っていたようで、つい遊んでしまいすみません」

やっぱり祟は友達感覚で家族に俺達を紹介し驚かせながらも、女性は俺にそう言い頭を深く下げ感謝する。
優しそうないい人で、おそらく祟の言葉をまともに捉えてないだろう。
一方瞬と呼ばれる兄貴はどう言う訳が俺のことを良く思ってないらしく、お姉さんの少女はなぜか悲しそうにうつむく。


「祟、どうしてすぐに俺達を探さないんだ?どれだけお前のことを心配したんだと思う?」
「・・・ごめんなさい・・・」
「瞬、落ち着きなさい。無事に見つかって良かったじゃないか?君達は二人なのか?」
「はい、二人で遊びに来ました」

容赦なく瞬は厳しく怒り出し祟はすっかり怯え小さくなるが、男性は祟を庇い頭を優しくなぜる。
どうやら厳しいのは実の兄である瞬だけであって、男性も女性同様優しいいい人だ。

「祟くん、私も凄く心配したんだよ。パレードの時手を離しちゃってごめんね」
「お姉ちゃんもごめんなさい。だけどそのおかげでマリアちゃんとお友達になれたんだよ。マリアちゃん、また遊ぼうね」
「うん、また遊ぶ。ねぇお兄ちゃん。そうくんとはまた遊べるよね?」

少しだけ不安げにそう俺に尋ねるマリアは幼いながらも、住んでいる所も知らない偶然出会えた祟とはこの場限りだと薄々理解しているのかも知れない。
確かにこのままではそうである。
これからも交流をするためには、連絡先を交換する必要があった。
俺はバッグからメモ帳を取り出し、自分の携帯とアドレスを書き女性に渡す。

「これ俺の番号なので、後で連絡先を教えてもらえないでしょうか?」
「ええ、喜んで。マリアちゃん、これからも祟くんと仲良くしてね?」
「うん」

女性は快く頷いてくれた。
それから俺はマリアと祟に約束通りキーホルダーを買ってあげ、祟の保護者に夕食をご馳走になりその日は別れた。



しかし俺の携帯に連絡先が届くことはなかった。
どうしてなのか分からなかったが、きっと俺達を警戒していたことなんだろう。
大人と言うのはそう言う物だと俺は知っていたから、簡単に納得が出来あの日のことを忘れることにした。




それから九年と言う長い月日が流れ俺は偶然祟を見つけた時、俺は祟がマリアの運命の相手だと確信したよ。
祟は何も覚えていないようだったがそれでも俺は祟に託し、都合が良い合わせ世計画に荷担した。

マリアがあの時と同じ無邪気な笑みを取り戻すために。



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