FRAGMENT

□夫婦としての試練
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「梓、準備は出来たか?」
「うん私は出来たよ。明日香は?」
「私も出来たよ。これからお船に乗って梓ちゃん達の住んでいるとこまで行くんでしょう?」
「そうだよ」

御館が手配してくれた船を目の前に、明日香ちゃんは目を輝かせて興奮しはしゃいでいる。

銀に明日香ちゃんの家族を聞くと、やっぱりどこか梓に似ている生い立ちだった。

密偵だった両親の裏切りで一家全員葬るはずだったが、たまたま通りかかった銀に明日香ちゃんと洋佑だけが助けられたらしい。
そしてそれを望美に話したところ、二人を引き取ることにしたと言う訳だ。
しかし実際はオレ達がこうして引き取ることになった。

引き取るからには洋佑には教育を受けてもらい、将来熊野のために動いてもらおう。
明日香ちゃんはこれから産まれてくる子供達のお世話係になってもらうのもいいかも知れない。

だけど本当の狙いは。

「な敦盛。源氏物語って読んだことあるか?」

当然のようにオレ達と一緒に戻ってくれる敦盛の耳元で、誰にも聞こえないようにそっと囁く。

「ああ。昔伯父上に貰ったが、それがどうした?」
「明日香ちゃんって梓に似て、将来有望だと思わないか?」

質問の意味を理解してないらしく不思議がる敦盛に、笑いを堪えそう言いながら明日香ちゃんに目をやる。

「そうだな。……………ヒノエまさか?」
「そう。光源氏計画、名案だろう?」
「わ私は別にそんな風に思っていないし、私にはもったいないに決まっている」

予想通り真っ赤に染め動転している割りには、その気があるような曖昧の答え。
これは本格的に面白くなってきたな。

「二人ともどうしたの?」
「なんでもないよ。じゃぁ行くか?」

今はまだ梓には内緒だ。
オレ達の子供達のことだけ考えて欲しいからね。
もちろんオレのこともそれなりに構って欲しい。

「そうだね。それじゃぁみんなまたね」
「うん。今度は私達が熊野に行くよ。朔にも会いたいからね」
「僕も梓さんが出産の頃にはまた行きます。兄さんから頼まれましたから」
「オヤジ達は知っているのか?」

初耳だった。

「ええ。ですから今頃は熊野中がお祝い一色でしょうね」

とにかく祭りごとが大好きな連中で、ましてはオレの跡継ぎならばただごとではないだろう。
みんな梓の帰りを今か今かと待ち詫びている。

「梓、お前は熊野にとっても必要な存在なんだよ。だからもう一度約束しよう。一緒に助け合いながら生きていこう」
「うん、私もそう思う。ずーと一緒にいようねヒノエ」

そう梓は笑顔で約束を交わした後、人目を気にすることなく当然のようにオレの唇に触れる。

こう言う反応がたまらなく好きなんだぜ?
これから梓は間違えなく、今よりもっといい女になる。
オレも遅れをとらないようにいい男になるからな。
そして世界で一番幸せな家族を築いていこう。


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