FRAGMENT

□夫婦としての試練
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「梓、お帰りなさい。今朝のこと」
「私忙しいから、話している暇なんかないの」

買い物をし終わり家に帰ると、いつものように朔が出迎えてくれた。
なんだか様子がおかしく声を掛けられたけど、私は無視をして台所に向かう。

朔と話すと悲しくなる。
朔はなんでもうまくこなせる、優しくて女性らしい。
私なんかじゃとても叶う相手ではないことぐらい分かっている。
だけどやっぱり負けたくない。

「そう。だけどその荷物は?」
「夕食の材料。これからは私が食事の仕度も掃除もやるから、朔は何もしなくて良いよ」
「梓が料理?料理なんかしたことあるの」
「ある。だからほっといて」

なんだかバカにされたようでますます腹が立ち、思わず嘘を付いてしまった。
料理は見ていただけで実際は作ったことなんか一度もない。

「だけどここはあなた達の世界とは違うって言うから、私も手伝うわ」
「そんなの駄目。一人で作って、ヒノエに奥さんは私だけだって認めてもらう」
「そんなことしなくても、ヒノエ殿は梓のことしか見てないわよ。やっぱりあなた今朝のこと気にしているのね」
「…………」

今度は完全に無視をした。
朔の言っているのは、嘘だって分かるから。
だって私だけを見ていたら、朔より私になんでも話してくれるはず。
私を置いていったりしない。



「痛い。また切っちゃった」

料理は思った以上に難しく物を切る度に指まで切ったり、火を使えばやけどを負ってしまった。
それにタマネギを切ると悲しくないのに涙が溢れ止まらないから、余計に指を切る。

料理って大変なんだね。

「でも頑張って作らないと、ヒノエは喜んでくれないよ」

と自分に言い聞かせて、痛みを堪えながら料理を作る。

朔はこれを毎日三回も作っていて、掃除も洗濯もやるなんてすごいね。
ヒノエが朔と結婚したがるのは当然か。

「梓、ただいま」

ヒノエの声が聞こえた。

本当に早く帰ってきたんだ。
でもまだ料理は出来てない。
朔だったらヒノエが帰ってくる前に作っているのに………。
私奥さん失格だ。



「お帰りなさい。ヒノエ、敦盛」

沈んだ気持ちでヒノエの元に行くと、すでに朔が二人を出迎えていた。

…………。

「梓、どうしたんだい?それにこんな怪我して、早く消毒しないと駄目じゃないか」

ヒノエはすぐに私の異変に気づき、私の両手を優しくさする。
ヒノエのぬくもりが伝わる。

「心配してくれるの?」
「当たり前だろう?梓はオレにとってどんな物よりも大切で愛しい存在だ。本当に何があったんだい?」
「料理を作っていたら、怪我しただけだから大丈夫」

なんの迷いもなくそう言ってくれたのが嬉しかったから、少しだけ元気になる。

どんな物よりも大切な愛しい存在。
まだそう思ってくれてるんだね。

「梓が料理?それは嬉しいね」
「うん。だからもう少し待っててね。それからお義父さんももうすぐ来るからみんなで食べようね」
「なんだよ。オヤジも来るのか」

途端にヒノエはつまんなそうに舌打ちする。
そう言えばヒノエってお義父さんと一緒にいるといつもそう言う顔をする。



「梓、これは一体?」
「オムライスって言って、ご飯を卵に包む料理なんだよ」

ようやくできた料理をヒノエ達の元へ持っていき並べていると、そう聞かれたので答えた。
保護者が作ってくれた時より黒いが良く焼いたからそうなったんだろう。

「オムライスね。随分個性的な料理だ」
「……………」
「敦盛、調子悪いの?」

無言のまま青ざめオムライスを見つめていた敦盛が心配になる。

「ちょっとお腹を壊してしまって。すまぬが先に部屋へ戻る」

本当に調子が悪そうに、そう言いヨロヨロと部屋を出ていく。

「…………逃げたな敦盛」
「なんか言った?」
「いや。じゃいただきます」

ヒノエも様子がおかしかったが、オムライスを沢山救い食べ始めたが口に入れた瞬間、動きが止まり汗が滝のように流れ落ちる。

「どうしたの?まずい?」
「………そ、そんなことない。すごく美味しい最高だよ」

再び動き出し、すごいスピードで食べ続ける。



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