FRAGMENT
□夫婦としての試練
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「明日景時が着くと、知らせがありました」
「景時が?何しに?」
梓を布団に寝かしつけた直後、弁慶が突然思いがけない奴の名を口にした。
確かに鎌倉とは熊野も和議を結びはしたが冷戦状態が続いたままで、交流はほとんどなかった。
そんな鎌倉の直属の部下である景時が一体何をしに?
「そんな驚かないで下さい。鎌倉には少しばかり貸しがありまして、景時を貸してもらったんですよ。陰陽術の使い手である景時なら、術を解く方法を知っているかも知れませんからね」
ネタバレをするが、弁慶らしい理由である。
一体どんな貸しなんだろうか?
「いいのかよ。これでチャラになるんだぞ」
「実を言うと僕も梓さんのことが好きだったんです。好きな女性のために一肌脱ぐのは当然ですからね」
まさしく爆弾発言を何事もないようにさらりと言い流す。
しかしオレにとっては、聞き捨てならないことだった。
その好きとはやっぱり恋愛感情があるって意味だよな。
弁慶が梓のことを?
確かに梓はオレ以外の奴らにも好かれていたのは知っていたが、まさか弁慶までがそうだったとはね。
さすがのオレもそこまでは気づかなかった。
今そう言うことを言うにはきっと何か裏があるに違いない。
本当に梓を取られてしまう恐れがある。
気を付けなければ。
ここでもオレは気が休まる時はないのだろう…………いやここではすごく休まる時がある。
梓の笑顔を見ればオレのすべてが癒されるからな。
「だったらオレは梓のためにすべてをさらけ出すよ」
それでも足りないぐらいだ。
「そうですか、頑張って下さい。もうヒノエも立派な熊野の男ですね」
「は、何を今さら?」
オレがこんなに真剣になっているのに、いきなり弁慶は訳の解らないことを言いだした。
しかも爺臭い台詞。
「君は頭領になってから良くやっていたと思いますが、まだ若さが言えの行動もざらにありました。だけど梓さんと出逢ったこの一年で随分成長したと感じます。あなた自身もそう感じてるでしょう?」
「まぁな」
今度は理解し頷く。
確かに梓に出逢ってからオレは変わった。
守ると言うことがどう言うことだが分かった気がする。
今のオレだけが守れる者は梓だけなんだ。
夜明け前に梓は起き目を擦りながら辺りを見まわしオレ達を見つけると、寝惚けた顔がとびっきりの笑顔にかわる。
その笑顔は誰の物なのだろうか?
オレだと言う自信が………
「ヒノエ、おはよう」
そう思った矢先オレの名を呼び抱きつき、なんの迷いもなく口づけを交わす。
そんな今まで当たり前だったことが、すごく嬉しいね。
「おはよう、梓。よく眠れたかい?」
「うん。だから今度はヒノエが寝てね。私がヌクの看病するから」
オレの問いに元気良く答え、当然のようにそんな気遣いを言いながらオレの袖を引っ張る。
やっぱり梓は優しいね。
「ありがとう。でもその必要はない。ヌクはもう大丈夫だからな」
「ええ。目が覚めれば元気になってます」
「本当?良かった」
オレと弁慶の言葉に梓は嬉しそうにすっかり落ちついた寝のヌクを見ると、ホッと溜め息を付き安心する。
こう言う時の梓もなんとも言えない魅力的な女性だね。
「だけどやっぱヒノエは寝なよ。疲れているんじゃないの?」
今度はオレの顔を覗き込み、心配そうにオレの目元を触れる。
そう言えば急に眠気が襲う。
「そうだな。じゃぁちょっとだけ」
「うん。おやすみなさい」
素直に聞く入れ布団に横になる。
梓の挨拶でオレは、深い眠りにつく。
「梓?」
目が覚めるといつの間にか日が高くなっていて、部屋には誰もいなくなっていた。
少し寝るつもりが、随分寝てしまったみたいだね。
特に違和感を持たずオレは起きあがり部屋から出ようとした時、一枚の紙切れの存在に気づく。
そこには、
しばらく考えたいことがあるので、捜さないで下さい。
梓
と書かれていた。