FRAGMENT

□10章 欠けた月は再び満ちる
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伽羅御所に着くと真夜中にも関わらず、周囲は騒がしかった。
そう言えばオレが見て来た時空の中で、御館が鎌倉の差し金によって殺されていたのがあったはず。

…………。
なんでオレはそんな重要なことを忘れていたんだろうか?
もし御館が殺されたなら、オレが御館を殺したことになる。

「ヒノエ君、秀衡さんならきっと大丈夫だよ」

オレの異変に気づいたのか、他の奴らに気づかれないように、望美は小声でそっとささやき微笑む。
その笑みは何か確信がある感じだ。

望美もこのこと知っているんだね。

「さすが神子殿。どんなことをしたんだい?」
「そんなたいそうな事はしてないよ。ただ忠告をしただけ」

あの御方は賢いから、それだけでも十分対処は出来るだろうな。

「それなら御館の事だから、何も心配する必要はないね」
「少しぐらいはした方が、良いと思うけど」

あまりにもオレの発言が軽かったのか、望美は少しだけ怒ってしまった。

オレは信頼しているから、言っただけなのにな。
間に受けすぎなんだよ。

「まぁ、そこが望美の良い所でもあるんだけどな」
「え、なんか言った?」
「いいや別に」

思わず声に出してしまったらしく、望美は首を曲げ聞き返す。
どうやら聞き取れなかったらしいな。
望美らしくて苦笑してしまう。

そんなこんなをやっていると、泰衡達が出て来て中へは言って良いと許可をえた。
何も知らない九郎達は血相を変え、御館の部屋に急ぐ。

それにしても泰衡の様子が、少しおかしく見えたのは気のせいだろうか?


「御館、御館」

御館の部屋に入るなり、九郎は懸命に辺りを見回しながら名を叫ぶ。
九郎だっだら無理ないか。

「ここ………じゃよ。九郎殿」

するとかすかな御館の声と共に、血で染まった御館が姿を見せる。
どうやら望美の言う通り重症だが一命は取り留めたらしいね。

「御館、すぐに傷の手当てをした方が良いですね。きちんと処置をすれば、大事ありません」

すぐさま弁慶が御館に駆け寄り、一通り傷を見た後にそう言ってホッと胸をなで降ろす。

だが一瞬見えた傷口はもしや?
だとしたらさっきの違和感も説明はつく。

「しかしわしも年をとったのう。鎌倉方の刺客に不覚をとった」

苦笑交じりで真実を伏せられる。

まぁそれが今一番適格な判断かも知れない。
こんな時に仲間内で揉めたりなんてことになったら、当然これから始まろうとしている戦になど勝てるはずがない。

「おのれ、兄上、景時」

素直に信じる奴もいた。

相変わらずなんて言うか上には向いてないね九郎には。

「これからの指揮は泰衡に任せる。その覚悟をあれも持っているようだ」
「俺達も協力します」
「宜しく頼んじゃよ」

どうやら泰衡の筋書き通りに物事は動き出したようだね。

こうなった以上確実に戦になるだろう。
だけどこんなことまでするからには、あいつ何か勝利する鍵を握っているに違いない。
だったらオレは理由を聞き出し、勝算の確実な見込みがあるならば協力した方が良さそうだな。



「泰衡、お前何を隠している?」

望美達が高館に戻って行った後オレは一人別行動を取り、泰衡を捜しだし早速問いかけてみる。

「なんだ、お前か。客人には関係ないことだ」

相変わらずつれない返事だ。

「それが大ありなんでね。さっさと蹴りを付けて、やらなきゃいけないことがあるんだ」
「やらなきゃいけないこと?別に関わらなくとも、それからやればいいだろう?お前らしくもない」

予想通りの冷たい言葉に、腹も立たない。

「それが出来ないんでね。我が神子様が役目を終えない限りは先に進めないんだ」

そう梓はこの世界に白龍の神子が二人もいらないから、元の世界に戻っていったんだ。
梓はどんな物よりも大切だけど、オレにはやっぱり熊野を捨てる訳にはいけない。

それにもしオレが熊野を捨てたりしたら、梓は心を痛め嫌われてしまうからね。
だから熊野で梓と暮らすことが絶対条件だよ。

「白龍の神子の役目か。ならその神子の指示に従えばいいだろう?」

どうしても話したくないことがよく分かる。
けどこっちも切羽詰まっているんでね。
望美の生やさしい考えの指示に従っていたら、いつまで経っても終わりわしない。

「御館を襲ったのは、あんたと銀じゃないのか?」

卑怯な手段だとは思いつつも、オレは笑みを見せながら切り札を口にした。

こうでもしなきゃ先に進まないからね。

図星なのか一瞬泰衡の顔が変わり、オレに背を向ける。
やっぱりそう言うことか。

「なんのことだ?」
「惚けても無駄だぜ。九郎や望美達には分からなくても、オレと弁慶にはお見通しだぜ」

おそらくあの弁慶のことだから、真実に気づいているはずだ。
かといって他の奴らに話すほど、あいつの性格は良くないからな。

「…………。何が目的だ?」

隠しと失せないと思ったのか、否定せずにそんなことを問う。

「話の内容次第では、オレも協力しようと思ってな」
「なぜ?」
「それはさっき言っただろう?早く終わらしたいと」

オレも本心で答えると、泰衡は沈黙後ようやく本題を語り始めた。




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