FRAGMENT

□10章 欠けた月は再び満ちる
6ページ/9ページ



あのね私ヒノエに“一目惚れ”していたんだよ。気づいていた?
私も………ヒノエのこと愛しているよ


「なんだ。また夢か………」

毎晩同じ夢でオレは目が覚める。
まだ真夜中。

オレの知らない女が、オレにそう言っている。
顔はぼやけて見えはっきりは見ないが、泣きながらも微笑んでいる気がする。
お前は一体誰なんだ?
オレにとってお前は………熊野よりも大切な姫君?
一生お前のそばにいると誓ったのに、お前を捨てないって約束したのに、守れなかったんだ。
最低だなオレ………。

そんなオレにもう熊野も望美も守れるはずがないよな。
忘れようとしているのに、これじゃ忘れられない。
かと言ってお前のことを思い出せない。
オレがその女どこに惚れ、どんな想い出があるってことさえも。

ただ
オレはその女を、本気で愛していたことは事実。
もう何をしても楽しいと感じられず、やる気も起きない。
ただ生きているという感じだ。
偽ることさえ出来ず、弁慶達がオレを心配するのが目に見えて分かる。

心配…………?

そう言えばあいつもすぐオレを心配していたよな。
純粋で単純で正直者。
自分は穢れているってすぐ言って、幸せになることを望んでいる癖に慣れないと思っている。
馬鹿なお人好し。

…………。
…………。
…………。

梓?

そうだった。
オレだけの清らかな姫神子様は、傷だらけの神子だった。


思い出したよ。
お前のこと。




「望美、お前今幸せか?」
「え、何どうしたの?」

オレは望美を見つけるなり、すぐさまそう尋ねた。
望美は意味を理解していないらしく首をかしげるので、オレはいつものように

「銀とだよ」

望美の耳元で甘くいじわるを囁く。

「え、うん」
すると正直の望美は頬を赤く染め、頷いて見せる。
「そうか。それならいい」

梓、お前の願いは叶ったようだ。
それはオレの喜びになる。
胸は相変わらず針串刺しにあっているような激痛だ走り続けるが、もうこの傷みは一生癒えることがないだろう。
癒えるとしたら、梓のことを壊れるぐらい抱きしめ愛を身体全体で感じるしか方法はない。
当分それはないけどね。

「ヒノエ君、どうしたの?」
「オレの愛する女の望みは叶ったかって思ってな」
昨日までは他人と話すことさえも嫌だったのに、今は前のオレに戻れたようだ。
こんなことなら白龍に記憶を消せなんて言わなきゃ良かった。
やっぱオレには梓の記憶が必要だった。
だけどこれで分かったことがある。
諦めることなど出来ないことを、思い知らされたよ。

「もしかしてヒノエ君梓のことを思い出したの」
「ああ。今まで心配掛けてごめんな。オレはもう大丈夫だから」
そう言ってオレは望美の頭を軽く叩く。
「そうみたいだね。それでヒノエ君はこれからどうしたい?」
「望美の八葉として尽くすよ。それが梓の願いだったからな」

オレの望みは梓の願いをすべて叶えること。
それ以外にはもう何も望まない。
いや
望みなんて今は何もないんだ。

「ヒノエ君………。梓と会いたい?」
「逢いたいに決まっているだろう?だけどそれはすべてを終わらせてからの話だよ」

再び顔を曇らせた望美にオレは、今思っているすべてを打ち明けた。
隠す必要なんかないし、いずれ望美の力が必要となるからね。
オレがお前を迎えに行く時にな。



次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ