FRAGMENT

□8章 素直のままで
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「あれ、馬がある。誰が来ているのかな?」

高館に帰り着くと、門の前にはいつもと見慣れぬ馬があった。
だけどその馬は前にどこかで見たことがある。

誰のなんだろう?
そんなことを考えていると、いきなり背後から抱きしめられた。
とても懐かしくって、温かい。

「ただいま、オレだけの姫神子様。約束通り向かいに来たよ」
「え?」

それは信じられない言葉だった。

今言ったことは本当なの?
私は戸惑いながらヒノエ様の顔をみると、

「梓、愛してる」

あの時とおなじ言葉と優しい眼差しで私を見つめ、私達の唇と唇が重なり合う。
あまりにも突然のことで何がなんだか分からない。

ヒノエ様はまだ私のことを、一人の人として愛してくれているの?

「私達は先に中へ入ってるわね」

そう朔は言ってみんなを連れ、邸の中に入っていく。

「ヒノエ様?」
「ヒノエ様じゃないよヒノエだよ」
「なんで?」

涙が自然に溢れ止まらない。
嬉しくて嬉しくてしょうがない。

「オレにはもうお前の卑劣で残酷な主にはなれない。お前はどうなんだい?」
「私はヒノエの傍にいられるのなら、なんだって出来るよ。ヒノエのこと好きだから」

呪いのことは忘れてないけど、ちゃんともう一度伝えたかった。
私はヒノエのことが好きで、どんなに酷い仕打ちをされたって構わない。
近くにいられるだけで、どんなことだってする。
朔の言っていたことは、すべてが本当だったんだね。

「ありがとう。嬉しいよ」
「だけど、私は呪われているから私を好きにになると死ぬんだよ」
「それでも良いぜ。だけどそんなこと言ったら、オレだってそうかも知れない」

そう言いながら、私をきつく抱きしめる。

ヒノエは死ぬのが怖くないの?
そう言えばあの時も私に殺されるのなら、怖くないって言っていたよね。
それはきっと好きな人に殺されるから、怖くないと言うことなんだ。
だからヒノエは怖くないんだね。

「オレは今まで何回もお前の死ぬのを見てきた。その度に胸が引き裂かれて狂いそうになったけど、オレにはこの白龍の逆鱗がある。だからオレは諦めない。お前が生きている未来にたどり着くまでは」

前に私がヒノエに上げた白龍の逆鱗を、私に見せた。

そうか。
そこまでしてヒノエは私を助けたいのか。
だったら私ももう死ぬことばかり考えないで、ヒノエのために生きることだけ考えよう。
それがきっとヒノエの望みだから。
でも………。

「ヒノエは熊野が一番大切なんだよね?」
「今は梓の方が、オレにとって一番大切だよ。もう二度と失いたくないんだ」

私の問いに前とは違うことを迷いなく答え、再び私に口づけする。
私が知っているヒノエじゃないけど、このぬくもりは同じだった。
それになんだか心が温かくなって、力がみなぎってくる。
元気になれる。

「本当にそう思ってくれるの?」
「ああ。そしてこの件が落ちついたら、熊野で一緒に楽しく幸せに暮らそう」

それは前からの私の願望。

いつかヒノエとヌクと三人で暮らせたらいい。
感情がなかった頃から、なぜかそう思っていた。
ヒノエは私のどこが好きなんだろう?
私はヒノエのことを傷つけてばかりいるのに、なんでこんなに私のこと愛してくれているの?
私は他の人と比べたら、何一ついい所なんかない。
今はやっとほんの少しだけ悲しみや傷みや喜びが分かってきたけど、それはヒノエが側にいて教えてくれたから。
ヒノエが教えてくれなから、きっと私は今でも昔のままだった。

「ヒノエは私のどこが好きなの?」
「お前のそのいつも怯えているようなその深くて透き通った瞳かな。イヤお前のすべてを愛してる」

私の問の答えは、イマイチ理解できなかった。

「でも私ヒノエをいつも傷つけているよ」
「そんなことたいしたことじゃない。例え傷ついたとしても、お前の笑顔ですべてが癒される。だから久しぶりの再会なんだから笑って」
とヒノエは言い、微笑みながら私の涙を舐め拭った。

なんだ。
ヒノエは私の笑顔が好きなんだ。
それならそうと最初に言えばいいのに。
今なら本当の笑顔見せられるよ。

「うん。ヒノエ、お帰りなさい」

言われた通り私は笑顔でヒノエを見上げた。
許されない幸せを、私は今めい一杯感じている。

「それじゃぁ、これからオレに付き合って貰おうか?」
「え、うんいいよ」

意味は分からなくてもヒノエと一緒ならいいと思えたから、私はなんの迷いもなく頷いた。



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