FRAGMENT

□8章 素直のままで
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「白龍これは一体どう言うことなんだ?」

周りが騒がしくて目が覚めると、周りには全員険しい顔で白龍を睨み、望美は眠っていた。
だけど望美の顔色は青ざめきいて、なんだか息も荒い。

こないだ病気が治ったばかりなのに、望美ってそんなに体が弱かったっけぇ?
前は望美より私の方が………。

「私もいろいろ頑張ってはいるけど、やっぱり私の神子は一人だけのようだ。それで今は梓神子の方が………」

白龍の重たい言葉に、あんなに大声で怒鳴りつけていた九郎までもが黙ってしまった。
でも白龍の言ったことは可笑しすぎる。
そんなはずがない。

確かに私は眠れなくて調子は悪いけど、前の調子の悪さとは違う。
怨霊封印も以前より楽に出来るようになった。
でもそしたら………

「私が助かって、望美は死んじゃうの?」
「そうだね。そう言うことになるね。神子は八葉の信頼が篤い方を選ぶから」

私の問いに白龍は答えたが、それはやっぱり可笑しなことだ。

だって白龍が言っていることがもし本当だったら、望美より私の方がみんなからの信頼が篤いの?
ますますそんなことありえない。
私はヒノエ以外からは、嫌われ者なんだ。
きっと私があまりにも穢れているから、それで望美はこうなっている。

「それなら私が死ねば望美は助かるの?」
「え?」
「私より望美の方が、どこへ行ったって必要されている。だったら私が死ねば」
「そんなの許さないよ。オレには梓が必要なんだ」

そう私は白龍に自分の考えを言っている最中、ヒノエが私をきつく抱きしめ横に首を振る。
怒っている。

「でも望美が死んだ方が沢山の人が悲しむ」
「それでも。オレはもうお前の死ぬ瞬間は、見たくないんだ」

私の言い分は正しいはずなのに、ヒノエはまだ頷いてくれない。

あの時と同じだ。
私がヒノエのためにしたことが、結局ヒノエを苦しめることになった。
今回もヒノエを苦しめてしまうの?
私が死んだらまたヒノエは白龍の逆鱗を使って過去に戻って、ずーと同じ苦しみを味わうのかもしれない。
でも望美は普通の人だから、死んでいくのは怖いんだよね。
どっちにしたって誰かが不幸になるんだ。
だとしたら私はどっちを選べばいい?

「………少し外に出ようか?」

そんなことを考えていると、ヒノエがそう言い私の手を持ちゆっくりと立ち上がった。
優しい澄んだ瞳で私を見つめている。
こう言う時のヒノエは何か私に教えたいことがあるんだよね?
今度は一体ヒノエは私に何を教えてくれるんだろう?

「うん、分かった」



「ねぇ、お前はどうして死を恐れないの?」

しばらく無言のままヌクも一緒に三人で歩いていると、ようやくヒノエが口を開き尋ねられた。

「そう教えられたから。死は怖くない人間はみんないつか死ぬって」

みんな死ぬのなら死とは当たり前なこと。
だから私は怖くないんだ。

「お前はいつもそう言うね。そして死ぬって言うのに笑顔だった。それがまたオレには耐えられなくって」

沈んだ声でそう言った後、私の手を強く握る。
死んだらいけないって言っているんだ。

「ごめんなさい。でもやっぱり望美が死ぬより、私が死んだ方が悲しむ人は少ない」
「そうかもな。ならこれはお前に返すよ」

とヒノエは白龍の逆鱗を私に差し出す。

「どうして?」
「もし今度お前が死んだらオレも死ぬから、もうそんなの必要ないからね。オレはずーと今のお前の傍にいるって誓うよ」
「そんなの駄目だよ。ヒノエが死んだら熊野は誰が守るの?」

ヒノエの言葉は嬉しかったけど、まさかそんなこと言うなんて思わなかった。
ヒノエにとって大切な熊野なのに、そんなくだらない理由で死んで良いはずない。
ヒノエが死んだら熊野の人たち全員が悲しむことになる。

「オレを死なせたくなかったら、梓も生き延びるんだよ。そうすればオレも死なないからな」

まるでそれは私が死なせない手段のようだった。
そんなこと言われたら死ねない。
だって私もヒノエが産まれ育った熊野が好きだから。

「分かった」

私は頷き白龍の逆鱗を受け取った。

「いい子だ。これからきっと仲間内で争いごとになると思うけど、お前はオレが守るから何も心配しなくて良い。愛してるよ、梓」

その後私を優しく抱きしめ、私たちは口づけを交わす。


この時私ももう覚悟を決めていた。
これを使って再び時空を越える。
私がこの世界に来たあの日まで遡って、そこで死ぬ。
そうすれば私の死を悲しむ人なんて誰もいない。
みんな幸せになれるに違いない。



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