FRAGMENT

□6章 穢れし者の定め
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真夜中少し休憩することになり、私とヌクはみんなと少し離れた場所に腰を下ろす。
みんなと特に九郎とリズヴァーンとは、行動の時以外は一緒にいたくはなかった。

二人は未だ私が裏切ったことを許してはくれず、私を再び仲間とは思ってくれないでいる。
いつも二人に監視されていて、私を軽蔑するかのように見ていた。

「偽りじゃないのか?」

そう言えばリズヴァーンは、最初から私のこと望美の偽りだと言って疑っていたんだ。

私は穢れているだけではなく、望美の偽りの存在なんだろうか?
考えれば考える程、胸がなにかに刺さったように痛い。
でも一番痛いのはヒノエ様に捨てると言われる時。
口づけしたら許してくれたけど、どうしてか分からない。
ヒノエ様の唇は甘くて美味しい。
今もまだ少し口づけの感触が残っている。
出逢った頃と同じ。

「ヌク、ヒノエ様はやっぱりヒノエだね」
「ワン、ワン」

ヌクは嬉しそうに頷くかのように吠え、私に飛びつく。

カタン


その時、袖から大きな扇が落ちた。
私はすぐにその扇を拾い開いて眺める。

「お前その扇まさか?」

するとさっき九郎と言い争っていた将臣がやってきて、驚いた様子でその扇を指さした。
理由は分かっている。

「そう、知盛のだよ。知盛から貰った」

あの戦の前日この扇を貰った時、戦に勝った時はこれで舞ってくれと頼まれた。
しかしそれは果たせることはなく、知盛は帰らぬ人になった。

知盛は夢の都に行けて、幸せに慣れたのだろうか?
それとも私が行けなかったから、怒っているのかな。
私って嘘つき。
もう知盛しか見ないって言ったのに、私はまだヒノエ様を見ている。

ごめん、知盛。
でも私は知盛のことも、まだ好きなんだ。
もしかして知盛が自殺したのは私のせい?
私が好きになったから呪い殺された。
………きっとそうだ。

「……将臣、ごめんなさい」
「梓?」

涙が溢れ私は将臣に謝罪する。

「私が知盛を殺したんだ」
「それは違うだろう?あいつは戦いに敗れて水深」

将臣は真実を言うが、それは間違っている。

「それなら私はどうして生きているの?」

と私は顔を上げ、もう一つの本当の真実を聞尋ねた。
本当なら私もあの時、死んでいたはず。

「それは、きっとあいつがお前だけでも生きて欲しいって願ったんじゃないのか?」
「なぜ?」
「お前のことを愛してたから。お前だけには幸せになって」
「無理だよ。だって血の好む人間は幸せになれないって教えてくれたのは、知盛なんだよ」

将臣の答えに否定する。

私の幸せなど、誰も望んではいない。
愛してくれるはずもない。

「お前は血を好むの人間じゃないぜ?強いて言うならそれは俺の方だよ」
「え、将臣が?」
「ああ。俺お前のように仲間が死んだって言うのに、悲しいはずなのに、涙の一粒も出てこないんだ。泣き方が分からないんだ」
「将臣……」

悲しい声だが、将臣は本当に泣いていない。
私だって昔は悲しい顔も泣くこともなかった。
なのに今はこんなに悲しくて泣くことが出来る。
私は血の好まない人間?

「……弔いの舞なんか舞うこと出来るか?」

しばらくの沈黙の後、将臣は独り言のように呟き尋ねた。
前に知盛に教えて貰ったことがある。
いろんなことを教わった。

「うん。舞うね」
「そんで舞ったら、知盛を忘れろまでは言わないが、もう二度と知盛のことで自分のこと追い込むんじゃねぇぞ」

立ち上がり舞おうとすると、そんなことを将臣は付け足し微笑み。

「分かった。将臣もね」

将臣につられ私も笑い、その晩は遅くまで弔いの舞を舞っていた。




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