FRAGMENT

□4.5章 もう一つの選択
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気がつくとそこは自分の泊まっていた部屋で、安全な場所に置いてきたはずのヌクが何事もなく寝ていた。

時空を超えられた。
でもここはいつなんだろう?

情報を集めるため私は服に着替えていると、襖が開く。

「あら梓。もう起きていたのね」

朔が何か見覚えのある着物を持ってやって来た。

「朔、それ?」
「ああこれは、ヒノエ殿に渡されたのよ。今日の逢瀬はこれを着て欲しいって」

やっぱり・・・。

朔の答えで、今日はいつだか分かった。
あの朝だ。
そしてまだヒノエは生きているんだ。
そう思った私はヒノエが生きているか確かめるべく、まっさきに部屋を飛び出した。

「ちょっと梓、どこ行くの?」

朔が私を呼ぶが、私は振り向かずに先を急いだ。



「姫君、おはよう。あれ朔ちゃんに着物を渡されたなかったかい?」

大広間には思った通り、元気なヒノエの姿があった。

良かった。
私の好きなヒノエ。
失いたくないから、もう私はヒノエと関わりを持たない。
影からヒノエを守ってみせる。

「ごめん。私あれ着れない」

あの着物はヒノエにとって大切な物。
だからヒノエは喜んでくれたけど、私が着ちゃいけないんだ。
好きな人と一緒にいることが、相手にとって不幸になることもある。

「え?」
「私用事が出来たからヒノエとは逢瀬はしない。だから望美とやって。ヒノエと望美はお似合いだよ」

一方的に私は無表情で話し、ヒノエに背を向ける。

今のヒノエは私に感情が蘇ったことを知らない。
だったら今までどおりに接した方がいい。
望美もヒノエが好きと言っていた。
私と正反対の望美なら、ヒノエはきっと幸せになれるんだ。

「梓、一体どうしたんだ?」
「どうもしないよ。じゃぁ私出掛けるから」

それだけ言って私は、自分の部屋にいるヌクを抱いて外に出掛けた。


これから私はどうしたら良いんだろう?
あの女の人にさえ会わなければいいのだが、それ以外は何も思い浮かばない。







「クン?」
「ヌクごめんね。もうヒノエと一緒にはいられないんだ」

目覚めたヌクに私はそう言ったが、ヌクは分からないのか不思議がる。
それを見たら、堪えていた涙が溢れでてきた。
これが悲しいってことなんだ。

「梓じゃないか?一体どうしたんだ」

そんな時、将臣の声が聞こえた。

私が泣いているしゃがみ込んでいるので、将臣はすごく驚いている。
当たり前かも知れない。
私がこんなに人前で泣いたのは、多分初めてだから。

「ヒノエが、ヒノエが」

でも頭の中が混乱してうまく話が出来ず、ただ将臣に泣きついてしまった。

「還内府殿もすみに置けないねぇ。まさかお前にも女がいたとわな」

後の方から、聞き覚えのない声が聞こえる。

「こいつはそんなんじゃねぇよ。前に話しただろう?クラスメイトがいるって」
「まぁそう言うことに、今はしといてやるよ」
「だから違うって!!」

いつもだっだら将臣がからかっている方なのに、今は珍しく誰かにからかわれている。
平家の人だろう。

「それでどうするんだ。還内府殿?」
「どうするって、俺達の泊まってる宿にでも連れて行くか」
「お優しいことで」

そう言って、男性は最後にあざ笑う。

「うるせぇ」



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