FRAGMENT
□4章 熊野別当暗殺指令
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「さぁ梓の無事が確認出来たから、殿方達は向こうに行ってくれませんか?」
「え、なんで?」
突然の朔の言葉に、景時殿は不思議そうに理由を聞く。
私も朔の言った意味が分からない。
「景時、野暮なことを聞くんじゃありませんよ。梓さんはまだずぶ濡れなんで、朔殿はさっき着替えを持っているんですよ」
と弁慶殿が付け加えて言うが、それは謎掛け見たかった。
「あ、そそうだね」
すると景時殿は頬を赤らめ、すごい勢いで退散していく。
そしてヒノエ達は笑いながら景時殿の後を追うように去っていった。
「なんでみんないなくなったの?」
まだ何のことだか分からない私は朔に再び尋ねる。
もしこれが私一人残されたのなら、役立たないから捨てられたと考えられるが、まだここには朔と望美がいるから違うんだ。
「それは梓がこれから、着替えをするからよ」
と答えられ持っていた服を渡される。
「着替え?」
「男性に着替える所見られたら恥ずかしいでしょう?」
「ううん。恥ずかしくないよ」
望美の言う理由が分かっても、意味が分からない。
どうして着替えを見られたら恥ずかしいの?
別に何をされるわけでもないから、いつもと同じだと思う。
それにもし恥ずかしいと言うのなら、どうして朔と望美はここにいるのだろうか?
「ならヒノエ殿見られたらどう?」
朔にまた尋ねられ、言われた通り想像してみる。
するといつものように心臓が高鳴り、あの時のことを思いだし体が震え出す。
「イヤだ。ヒノエは噛みついて怖くなる」
「え、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。もう良いから着替えましょう」
怯える私に朔は申し訳なさそうにそう言い、それ以上そのことには触れなかった。
そしてそんなやり取りを望美は、何も言わずに聞いていたのだ。
怨霊を追い勝浦に向かう途中三段壁と言う場所で休憩することになり、みんなと離れ一人でどこかに行こうとするヒノエが見えた。
私はなぜかそんなヒノエをヌクと二人で後を追った。
気になってしょうがなかったから。
一瞬見失いそうになったが、すぐに深刻な顔で何かを考えているヒノエを見つけることが出来た。
「ヒノエ」
私は思わずそう尋ねてしまう。
ヌクは心配そうにヒノエを見上げて、しょんっぼりしている。
私もヒノエが心配かもしれない。
「・・・・」
「ヒノエ、どうしたの?」
もう一度大きな声でヒノエを呼ぶ。
「ああ、梓か?」
ようやく私に気づきヒノエはいつもの顔に戻ったが、まだどこか辛そうにも見えた。
見ていると私まで辛くなる。
「なんか嫌なことあったの?」
「いや別にそんなことないぜ」
「うそ。今ヒノエすごく辛そうな顔していた。私とヌクにはわかる」
わざとらしい笑顔に私は思ったことを強く言う。
ヒノエには隠し事をされたくない。
ヒノエのこともっとよく知りたい。
すべてが知りたい。
でも私はヒノエに隠し事をしている。
ヒノエのことを知りたかったら、自分のこともすべて話さないといけない?
私のこの気持ちは、矛盾って言うのだろうか?
「心配してくれるんだ?」
「うん。私もヌクもヒノエのこと心配だよ」
私がそう答えるとヒノエは一瞬キョトンとした顔で私を見つめ、そしてすぐに照れた表情に変わった。
「嬉しいよ。姫君がそう思ってくれて」
「本当に?」
「ああ。でもなんでそう思うんだい?」
「分かんないけど、ヒノエのこと気になるから」
最近それがやっと分かった。
私はヒノエのことが気になる。
だから私はヒノエのことばかり考えてしまう。
でもまだなんで気になるのかが分からない。