FRAGMENT

□4章 熊野別当暗殺指令
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「人が沢山いるけど、何かあったのかな?」

そう言いながら望美は、辺りをキョロキョロ見回した。
確かにここは人が沢山いて、あんまり長くいたくない。
私は普通の人が沢山いる場所は苦手なのだ。

「ああ。後白河院の御幸があるって話だから、それが目当てで物売りやら野次馬が集まってるんだろう」
「後白河院って、梓ちゃんを前に欲しがってた人のこと?」

ヒノエの説明に、望美はまた尋ねる。
そう言えば、前にそんなことがあった。
その時はヒノエが駄目だと言ったから、私は後白河院の所には行かなかった。

今回はどうなんだろう?
良い子じゃないから、今度言われたりしたら頷いてしまうのだろうか?
そしたら私は後白河院の元に行かなくてはならない。

「そんな心配な顔しなくても、後白河院なんかに渡したりしないから安心しろよ」

私の考えていることが分かったのかヒノエは私の顔を覗き込み、笑顔でいつものように私の頭を優しくなぜてくれる。
これで安心出来た。

「うん。なら私は後白河院に言われたらちゃんと断るね」
「そうだよ。お前は本当に素直で良い子だな」

良い子と言われるのが、私にとって一番嬉しい。

「なんかヒノエ君って、梓ちゃんのお兄さんみたい」

そんな様子を見てた望美は、私達を見ながら微笑んだ。

ヒノエが私のお兄さん?

「そうですね」

続けて弁慶殿も微笑み、そしてみんなも同じ顔になる。

「どうせなら、彼氏って言って欲しいね」

しかしヒノエだけは納得いかないのか苦笑した。

それはつまり?

「ヒノエは私の彼氏になりたいの?」
「そうだよ。してくれるかい?」
「良いけど、彼氏ってなんなの?」

ヒノエは頷いたが、彼氏の意味が分からない。
けどヒノエがなりたいと言うのなら、今から私の彼氏なんだ。
でも私がそう聞くと、ヒノエは肩を落としみんなはますます笑う。

「お前のそのボケッ振りは、今も健在みたいだな」

聞き覚えのある笑い声が聞こえた。

「あ、将臣君。久しぶり」

望美が声の持ち主の名を呼ぶと、数ヶ月ぶりの将臣が姿をみせた。
将臣は涙を流しおかしそうに声を出し笑っている。

「私なんか変なこと言った?」
「しかも自覚がねぇ。お前最高」
「?」

尋ねたらここぞとばかし笑われてしまった。
彼氏とはそんなにおかしいことなんだ。

「もういいよ。姫君。まだ今の関係でも、オレは満足してるから」
「そうなの?ヒノエがそれでいいんなら」

ついにヒノエは諦めたらしく、願い下げをされてしまった。
その意味も本当は良く分かんなかったが、これ以上聞いても私には分からないと思った。
それにヒノエがいいと言えば、それ以上知る必要がない。

「所で将臣君、君はどうして熊野に?熊野詣にでも来たのですか?」

話は変わり弁慶殿は将臣にそう尋ねる。

「まぁそんなところだ。って言っても本宮に入れねぇから、ブラついて暇つぶしだ」
「本宮に入れない?どう言うことだ」

少し困っている将臣に、みんなの視線は集中する。

私達も本宮に行くから、入れないと困る。

そして将臣が入れない理由を教えてくれた。
なんでも熊野本宮への道は全部川の氾濫で通れなくなってるらしい。
しかも人が近づくと急に増水するそうだ。
それを聞いた望美はその怪異の原因を突き止めようと良い、私達は当初の予定通り熊野路の先まで行くことになった。

しかし将臣は連れがいると言って、すぐに私達の元から去っていった。




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