FRAGMENT

□3章 守るべき約束と命令
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「今日の初陣、よく頑張ったね。君のおかげで助かったよ」

大輪田泊で無事に九郎殿達と合流した私は、景時殿に一人だけ呼ばれて笑顔を浮かべ言われた。

「鎌倉殿の役に立った?」
「・・・うん、そうだね」

なのに私がそう問うと、歯切れの悪い答えが返ってくる。
様子が変だ。

「・・・役に立ってないの?」
「そそんなことないよ。ちゃんと鎌倉殿にはありのままを伝えるから、そんな顔しないで」

今度は作り笑いに変わり、どうしてなのか嘘をつく。
何かを隠しているって、私にはちゃんと分かる。

「君は悪くないんだ。本当に。だからオレが鎌倉に捕らえた平家達を護送して戻ってる間、みんなのこと宜しく頼むよ」
「・・・うん」
「話はこれで終わり。本陣まで送るよ」

それ以上何も言えず私は景時殿に連れられて本陣に戻ろうとした時、ヒノエがそこにいた。

「ヒノエ君、いつからそこに?」

今の話は他人に聞かれてはいけなかったらしく、景時殿は気まずそうな顔でヒノエを見つめる。

「安心しろ。話は聞いてないからさ」

しかしヒノエは何も聞いてなかったらしく、そう答え私達の元に近づいてきた。

「そ、そう。ならいいんだ」
「だけどな、もし梓を傷つけるような真似をしあがったら、オレが絶対許さない。それだけは覚えておけ」

ホッとする景時殿の耳元で、ヒノエがドスをきかせてそうとも言った。

「ヒノエ君、イヤだな。オレは梓ちゃんの八葉だよ。そんなことするはずないじゃん。アハハハ」

声が裏返り、更に苦笑い。
やっぱり景時殿はなんか変である。

「そうだよな。じゃぁ梓はオレが本陣へまで連れて行くよ」
「分かった。じゃぁお二人ともお疲れさん。今夜はゆっくり休むんだよ」

結局ヒノエも何も言わず、私は今度こそ本陣に戻ることになった。


「望美、一体お前は何を考えてるんだ!!」


本陣についた直後、九郎殿の怒鳴り声がうるさい程に聞こえて来た。
望美のことをとてつもなく怒っている。
急いでみんなの元に行くと、望美の隣には見たことのない少年がいた。


あの少年から怨霊と平家の匂いがする。
だけどその少年の手の掌に水色の宝珠が埋まっていた。
だったら八葉?

「あいつは?」

ヒノエの知り合いらしく驚いている。

「ちゃんと考えてるよ。だから敦盛さんは八葉で、私達に協力してくれるって言ってるじゃない」
「でもそいつは平家なんだぞ。平家は源氏の敵だ」
「だけど八葉は必要なの。九郎さんの言うことも分かるけど」
「そうだよ。八葉は神子達にとって必要な存在」
「しかしだな」

白龍も加わり言い合いになっていた。
当の本人は怯えて何も言っていない。
害はないと思った。
だけど平家は敵で、捕まえた平家は鎌倉に護送すると聞いている。

「梓ちゃんとヒノエ君は、どう思う?」

望美は私達を見つけて、そう尋ねてくる。
私には分からない。

「私に聞かないで」

望美には悪いがそう言うしかない。
すると望美は一瞬顔を拒ませた。

「オレは望美の意見に賛成だよ。恋敵が増えるかも知れないけど、八葉は大切だからね。それに敦盛ならずる賢いことは考えないからね」
「そうですね。あなたと違って敦盛君は素直で優しい子ですからね。誰かさんとは違って」

弁慶殿も少年のことを知っているようだった。

怨霊とどこで知り合いになるんだろうか?

「誰かさんって、誰のことだよ?」
「さぁ誰でしょうね」
「分かった分かった。ならしばらく様子を見ることにする」

今度はヒノエと弁慶殿が険悪ムードになろうとした時、九郎殿が渋々認めその場は取り敢えず収まった。
これで八葉は将臣がいないけど、すべて揃ったことになる。


この戦がのちに残酷な結果になろうとは、まだ誰もが予想しなかった。



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