FRAGMENT
□1章 白龍の神子は殺人鬼
2ページ/9ページ
その日は朝から土砂降りの天気だった。
こう言う日は体中に古傷が痛んで仕事がやりにくいのだが、今夜が一番の絶好日なのだから気分が乗らないが仕方がない。
そう思いながら渡り廊下をボーとしながら歩いていると、
ドン
誰かとぶつかってしまった。
それは同じクラスの春日さんだった。
「おい、望美大丈夫か?」
と言って春日さんに手を差し伸べたのは、やっぱり同じクラスの有川。
そう言えばこの二人って、幼馴染みとか聞いたことがある。
「うん、私は大丈夫。桑原さん、ごめんね。私余所見してて」
「私の方こそボーとしていたから、ごめんなさい」
今のは完全に私が悪いのに、こうして誤っている。
春日さんは私とは違い、誰からも愛される優しい女の子だ。
クラスメイトで私に頻繁に話しかけてくる唯一の存在。
でも正直迷惑している。
私は人間と関わりを持つことが苦手だ。
だって話していても何も感じないし、なんで笑っているのか言っている意味が分からない。
私はそれでも良いけれども、相手がイヤで困惑した表情をする。
だから私は一人の方が気楽で良い。
高校は私の保護者が行けと言っているので、こうしてただ来ているだけ。
そんな時、
「見つけた。私の神子」
『え?』
突然少年の声がしたので、私達は同時に少年の声のする方に視線を変えた。
土砂降りにも関わらず傘も差さずに、少年は立ってこちらを見ている。
水色の長髪をして着物姿で、年で言えば十歳前後だろう。
なんか様子がおかしいと思った瞬間、私は意識を失ってしまった。
「クンクン」
「え?」
気がつくと一匹の子犬が、私の顔を懸命に舐めている。
悲しい瞳をしていたが私が気づいたのが分かったのか、しっぽを振り嬉しそうに私に寄り添ってきた。
「お前、どこから」
私は身を起こし子犬を抱き上げそう尋ねかけた時、視界に入ったのは成犬と子犬達の無様な死骸が転がっている。
まだ殺されてからそれほど時間が経ってない。
良く見たらこの子も、特に口の周りが血だらけである。
きっと母親のお乳を飲んでいたのだろう。
「そうか。お前も私と同じ一人なんだね」
いつもなら何も思わないのに、なぜだか今はこの子が可愛そうだと思えた。
それは私と同じだったからかも知れない。
私も幼い時家族を目の前で殺されてしまった経験があるから。
思えば多分あの時から私は、感情をなくしてしまったんだと思う。
こう言うのが、可愛いそうなんだ。
「なら私と一緒に行こうか?」
「クンクン」
私の問いに子犬は答えるかのように、吠えながら再び私の顔をなめ始める。
この子は私と違ってまだ感情があるんだね。
だったら私が、この子を守ってあげよう。
なぜだがそう心から思えた。
不思議な初めて思えた気持ちだった。
「私の名前は梓。お前の名前は・・・ヌクで良い?」
まだ私にも家族があった頃飼っていた犬の名前が思い浮かんだので、その名前を言った。
子犬は相変わらず喜んでいる。
素直だね。
「じゃぁ、お前は今日からヌクだよ。よろしくね、ヌク」
「ワンワン」
こちらこそよろしくって言っている気がした。
これが私とヌクの運命的な出会いだった。