FRAGMENT

□1章 白龍の神子は殺人鬼 
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「神子、ごめんなさい」

怨霊達をすべて封印した直後、今にも泣き出してしまいそうな少年が私に謝った。

「なんか悪いことした?」
「神子の犬が逃げてしまった」
「ヌクが?どっち行った?」
「あっち」

と少年がきた道を指差す。
でもヌクは逃げたいから逃げたのであって、そんな顔して誤ることないと思う。

「分かった。私探してくる」

だけどヌクを一人にしておくのは、あまりのも危険なので探しに行くことにした。

「一人で行動したら危険です。俺も一緒に行きます」

青年が言って、私はさっきの問いを思い出す。
この青年が、どうして私を知っているのかを。

「そう言えばさっきの答えは?」
「さっきの?ああ、俺有川譲です。将臣の弟です。何回か会ったことがあるのですが、覚えてません?」
「・・・あっ」

青年の答えに私はようやく思い出した。
青年の言う通り、何回か会ったことがある。
だけど直接話したことがなかったため、良くは覚えていなかった。

「思い出してくれましたか?」
「うん。でもどうして、有川までここに?」
「それは俺にも分かりません。気づいたらこんな格好をしていました」

私と同じだった。
ただ有川は私と違って動揺している。

「ここはどこなんですか?」
「宇治川って、朔が言っていたよ」
「ええ。そうよ」
「宇治川。京都のですか?」
「京都にあるの?そんな川」

てっきり異世界だと思っていたので、これには少し驚いた。
私は京都に行ったことがないから、こうなっているなんて知らなかった。

怨霊が多いんだね京都って。
ここって、私がいる日本なんだ。

「きょうと?譲、ここは京だよ。ここは時や場所だけではなく、神子の時空と違う京」

私達の会話を聞いていた少年は、驚いた様子でそう教えてくれた。

なんだやっぱり異世界なのか。

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ。時空ってなんだ?宇治川って言うぐらいだから国内なんだろう?」

有川はますます取り乱し初め、少年に尋ねる。

「ううん。京の宇治川だよ。譲の世界の川とは違う」
「は・・はは・・・なんだよそれ。ここは俺達のいた家や学校がある世界じゃないって言うのか?」

平然と否定されたにも関わらず、有川はまだ信じられず戸惑っている。

「そんなあっちに未練あるの?」

なんで有川がそこまであっちにこだわるのか分からない。

生きていくならどこでもいいと思うんだけれど?

「未練って。先輩は、いいんですか?」
「うん。別にここがどこでも構わない」

問われられたが、殺されても良いと思っている私には未練などあるはずもない。

そもそも未練って言うのって、どんなことを言うのだろうか?

「構わないんですか?」
「うん。だから戻っても良いしこのままでも良いし」
「そうですか。俺は戻りたいです」
「そう。なら帰る方法を探す?」
「探す?そうですね。一緒に探しましょう」

有川はようやく笑った。
私までもが探すことになってしまったが、どうせあてがなかったので否定しなかった。
どうせそのうち有川も私から離れていくのだから、こんなこと少しの間だけだ
もしも戻れたとしても、私にはどうってことない。
いつもの生活に戻るだけ。

「分かった。じゃぁヌクを探しに行こう」

と私は言って来た道を逆行し、ヌクを探しに行く。
まだそう遠くはいってないはずだ。




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