遙かなる異世界で
□間章
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初めて会ったはずなのになぜか阿国さんを知っている気がして気にはなってはいるんだけれど、それがどこで会ったのか思い出せずにいる。
遠い昔に……。
そして不安に思うこともあって、それは兄さんには養子に出していた双子の兄さんがいたこと。
双子と知った時は驚くよりも、ショックが大きかった。
異世界の阿国さん達が来たあの日、私は何かとんでもない間違いをしてしまった気がする。
八重曰く実は私と八重は異世界の織田信長の娘の影武者だったらしく、七歳の時この世界に飛ばされ天野家の養子となったらしい。
だからもっと詳しい話を八重に聞きたいのに、八重と来たら「影武者としてのの役目はもう終わっているのだから今を前向きに楽しく生きれば良い」と言ってそれ以上は話してくれない。
それはごもっとなんだけれど、疎外感を感じてしまう。
「明日はジャンヌと大和も誘って交流を深めるため遊園地に行こう」
八重の提案で、みんなで遊園地に行くことになった。
確かに阿国さんとはだいぶ打ち解けたとは思うも、まだ秀信くんと三鶴兄さんとは打ち解けてはいない。
八重はなぜか秀信くんと完全に打ち解けたようで、頻繁に名前が出て来ている。
まさか一目惚れしたのかなと思ったけれど、幸村さんに一目惚れしたと勘違いした時はガチで怒られたからしばらく様子見をすることにした。
「七緒、あんちゃんと阿国さんペアで良い?」
「え、なんのこと?」
「実は明日の遊園地の本当の目的は大和のお礼だったりするんだよね? だから大和とジャンヌをペアにするためにも、私達もペアを組もうと思ってね?」
「そう言うことならそれでいいよ」
日本史が分からなくって八重に教えてもらい少し休憩することになった直後、八重は唐突に聞いてきて首を傾げる私に真相を話してくれる。
お礼と言うことはこの前の阿国さん達の一件か。
あの時は関係のない大和に迷惑………ジャンヌさんにも掛けてたような。
………それって主に私?
だったらジャンヌさんにお礼をした方が良いのかな?
「ありがとう。それじゃ私はお兄ちゃんと秀信で。後はどうやって細工をするか」
「八重って、秀信くんと仲良いよね?」
「まぁね。素直で優しくて可愛い子だもん。それとも秀信と阿国さんがいい?」
ちょっと探りを入れようと詮索すれば、動揺もされずあっさりと譲ってくれる。
?
ただ仲が良いだけ?
「いいの?」
「うん。私は誰でも良いからね?」
「そうなんだ。私も誰でも良いから三鶴兄さんと阿国さんにする」
思惑が外れ拍子抜けになり、最初の案で言ってもらうことにした。
率直に聞いたらまた怒られる所だった。
「あーあやっぱりこうなった。まぁでも大和とジャンヌの組み合わせは成功したから良しとするか」
「……お前は妹離れした方が良い」
「なんでだよ。みんなで回った方が楽しいだろう?」
大和とジャンヌさんが行った後兄さんが駄々を捏ねてしまい残り全員で回ることになり、八重はもう呆れきってうんざりとばかりに呟き三鶴兄さんはため息交じりでそう言い捨て兄さんを軽蔑した。
それでも兄さんは自分の意見を正当化させようとする。
私は別にどっちでも良かったから黙って、阿国さんと距離を置く。
「五月は本当に七獅ニ八重を大切にしているんだな。五月の気持ちは分からなくもないが、七獅ヘ気になる殿方はいないのか?」
「え、いないですよ。そんな人」
気になる人に聞かれても否定するしかなく、慌てて視線をそらせばそこには秀信くんがいて微笑んでいる。
気づかれた?
八重にも気づかれてないのに、よりにもよって秀信くんになんて最悪すぎる。
誤解はすぐに訂正しないと後で大変なことになるって、八重はいつも言っていただから。
「秀信くん、一緒に飲み物を買いに行こう?」
「はい、良いですよ。って七獅ウん?」
と言ってもここで誤解なんて解けるはずもなく適当な理由を言って、秀信くんの腕を掴みその場から離れた。
「秀信くん、私は阿国さんの事が気になってはいるけれど、それは恋愛感情じゃないからね」
「そうなのですか? では飲み物を買って帰りましょう」
「え、あうんそうだね?」
拍子抜けするぐらいあっさりと誤解は解かれ、秀信くんは疑う様子もなく売店に向かう。
さっきの微笑みに深い意味はなかった?
それとも空気を読んでそう言うことにされた?
単に秀信くんは素直過ぎるだけ?
「秀信くんって八重が言うように素直で優しい人だね?」
「八重さんはそう言っているんですか? まさか可愛いとか言ってませんよね?」
「言ってたよ」
「やはりそうなのですね。……仕方がないですね」
男子高校生に可愛いと言うのは禁句なのか少し悲しげに笑う。
確かに大和に可愛いなんて言ったら何を言われるか、……実際可愛いとは思えないけど。 その点秀信くんは八重の言うように素直で可愛い男の子だとは思う。
「秀信くんは八重に格好いいって思われたいの?」
「そうですね。いつまでも可愛いと思われても複雑です」
「ふーん。もしかして秀信くんって八重のこと好きなの?」
「は? それはないです」
深刻に悩んでいるから秀信くんが八重のことを好きなんだと思い聞くと、きょとんと否定され私の完全なる早とちりだって気づくのだが、
「七氏Aあんた何この前から変な推測ばかりしてるのよ。秀信は私にとって弟のような存在なんだからね」
背後からとてつもない邪気を感じ慌てて振り向くと、八重が怒りに燃えていて恐怖でしかない。
「はい。すみませんでした」
ここはただ謝った方がいいので謝るけれど、同い年なのに弟のような存在だって思うのはおかしい。
秀信くんが可哀想。
「八重、それはあまりにも秀信が不憫だと思うよ」
「だけど本当の事………じゃぁもし私に勝負で勝てたら男として認めてあげる」
「分かりました。今は無理でもきっと勝ってみせます」
「よし、よく言った。期待して待ってるわ」
阿国さんの助言でそう話はまとまり、秀信くんは意気込んで八重とレジに並ぶ。
それはまるで姉と弟のようで微笑まし………あれなんだか懐かしい?
「秀信くん大丈夫かな? 八重滅茶苦茶強いから」
「難しいだろうね? 先日二人の手合わせを見てたけど、秀信も三鶴も八重の相手ではなかったよ」
「え、手合わせ? しかも三鶴兄さんともしたんですか?」
それは初耳だった。
「ああ。八重はどこで強くなったんだろうね? この世界は戦も怨霊もない平和な世なのに」
「八重は祓魔師ですから、そうでもないんですよ。詳しくは知りませんが冷血な神子って言われて恐れられているらしいです」
「そうなのかい? ………近寄りたくない異名………。しかし七獅ヘどうしてそんな危ない世界に行こうとするんだい?」
「今まで私には怨霊が見えなくって寂しい思いをしてました。私八重の力になって傍にいたいんです」
ずーと八重と兄さんが羨ましかった。
怨霊が見えて両親の手伝いが出来て。
八重と一緒に怨霊で困っている人達を助けてあげたいってずーと思ってた。
「七獅ヘ本当に八重が大好きなのだな。そして八重も七獅ェ大好きで。きっとその願いは叶うよ」
優しい笑顔で嬉しいことを言ってくれ、私の頭をなぜる。
遠い昔にもこんなことがあったような気がして、心の奥が温かくなり心臓の音が高鳴り始めた。