夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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「小松婦人、いらっしゃいませ。帆波お嬢様もいらしてくれたのですね? きっと旦那様もお慶びになると思います」
「おじゃまします。そう言ってくれると嬉しいな?」
「おじゃまします。本当のことよ。清四郎くんは帆波を本当の娘にしたく秋ちゃんの許嫁にしようとしたんだけど、帯刀さんが断固反対してね? まだ二十五年は早い上、軍人とは結婚させないって」
「そうでしたね?」

 片霧邸に行くと執事の所沢さんに迎えられ私のことも歓迎してくれると、おばあちゃんは私が覚えていない思い出を話始め二人で懐かしむ。

 おじいちゃんなら絶対言いそうだから、どんな光景だったか大体の予想はつく。
 だから私が物心付いた時以降にはそう言う話題にもならなくって、もし秋兄が軍人以外の道に進んでいたら許嫁になっていたのだろうか?


「凪さん、帆波くん。こんにちは」
「こんにちは。はい、秋ちゃんの大好きなシベリア」
「それはありがとうございます。凪さんのシベリアはお袋の味です」
「そう言ってくれると嬉しいな」

 続いて秋兄がやって来て相変わらずの爽やか青年だなと思うも束の間シベリアのお土産だと分かった途端、たちまち少年の笑顔を浮かべ無邪気に喜ぶ。

 本当にシベリアが大好きだって言うのが伝わり、秋兄がこう言うギャップは案外ありかも?
 博士はいつも意地悪で冷たいのに時たま優しくなったり弱さを見せたりギャップだらけだったよね?
 それを含めて全部が好き。

「おや? 帆波くん、もしかして恋をしてませんか?」
「え、いきなり何?」
「だって恋をしている女性の顔をしてますよ」
「うっ……」

突然のなんの脈略もないでも図星の問いに惚けてみようと思うも、すでに見抜かされているらしく何も言えずに口ごもる。
 そんな私を見て秋兄はともかくおばあちゃんまでもがクスクスと笑いだす。

 他人事だと思って、ひどくないか?

「相手の殿方は藤堂さんですか?」
「まぁ………」
「それは良かったですね? 婚約者が好きな人なら誰にも反対されることはなく、祝福されるだけですからね」

 何も知らないからこそ言える祝福の言葉で嬉しいと思いつつも、実際は問題だらけで前途多難でしかなかったりする。

 尚哉さんとの婚約は偽りで影武者で未来人で萬を作った人で、婚約者を亡くして自暴自棄になってこの世界を滅亡そうとしているのかも知れない。

 ……言葉にすると博士は人間の屑だな。
 それでも好きだと言える私はすごいと言うより馬鹿。
 それを信じてくれるのはおばあちゃんぐらい。

「だと良いんだけどね」





「清四郎さん、見舞いに来ました」
「清四郎くん、今日はコスモスの花束を持ってきたよ。きれいでしょ?」

 清四郎さんは安やかに眠っていて意外にも顔色が良くいつ目覚めてもおかしくない。
 早く目覚めて欲しいと思うものの、清四郎さんの罪はどんな理由があろうとも重いものである。
 それだったらこのまま目を覚まさない方が案外幸せなのかもしれない。

「ずーと一人で思い悩んでいたなんて知らなかった。もし真佑子ちゃんが亡くなった時点で気づいていたら、こんなことにならなかったんだよね。ごめんなさい」
「なんで凪さんがそんな辛そうに謝るんですか? それを言ったら息子の僕が気づくべきだったんです。凪さんには本当に感謝してるんです。あんなことをした父を、こうやって四神の力で食い止めてくれている」
「だって私は清四郎くんの気持ちがよく分かるからね。愛する人を失えば、悪魔にだってすがりたい。例え世界を敵に回してたとしても、愛する人を救えれば後悔はしない」

 悔しそうに呟くおばあちゃんに、秋兄は必死になって全否定する。

 私もおばあちゃんがそこまで負い目を感じることはないとは思うも、気持ちは分かり私も同じ立場なら間違えなくそう思うだろうし博士だって全く同じ過ちを犯そうとしている。
 問題が起きる前になんとか阻止をしなければ、清四郎さんのようになってしまう。
 さっきのことで博士のバックにいるのは未来の黒龍であることはほぼ間違いがないんけれど、この世界をなんで滅ぼそうとしているのかが分からない。
 この世界が滅びたら未来もなくなる………滅ぼさないで何かをして未来を変えようとしているのかも?
 でもそんなことをして目的を果たせたとしてもいずれタイムパラドックスが生じてしまい、結局歴史は元に戻され意味がないと思う。
 博士だってそれぐらい分かってるはずなのに、それだけ絶望して回りが見えなくなっている。

 だったら私が萬とタイムパラドックスが起きない解決策を見つければいい。
 やっと私がやるべき事が見つかった。



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