夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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「そうだったんだね。話してくれてありがとう」

 これまでのことを大まかにおばあちゃんに話すと、おばあちゃんは疑わず信じてくれ私の手を握る。
 それは元異世界人で二つの世界を行き交いしていたおばあちゃんだから、ぶっとんだ話でも疑わないんだと思う。
 おかげであんなに重かった気分がずいぶん軽くなったし、これからは何かあってもおばあちゃんに聞いてもらえると言う心の拠り所ができた。

「私は博士が好きだから、博士のためだったらなんでもする」
「帆波の決意は固いんだね。でも愛する人を失った人の苦しみは、想像以上に辛いもので最低最悪の人間になって周囲に迷惑を掛けてしまう。救いだすには沢山傷つけられる。それでも帆波は耐えられる?」
「おばあちゃん?」

 まるで自分が経験したかのように親身に語りかけ、瞳の奥は何かに怯えた少女のようになる。
 こんなおばあちゃん一度も見たことがなくって、びっくりしてしまう。

「……実は私一度帯刀さんが死んでしまった世界に行ったことがあるの。その時私は目の前の現実を受け入れられず周囲にすごく迷惑を掛けて、最低最悪の人間になってた。過去に戻って未来を変えると決心しても、本当はこれ以上傷つくことを恐れて一度躊躇したの。でもシロちゃんに背中を押されて今がある」
「そうなんだ。だからおばあちゃんはおじいちゃんより長生きしたくないんだね?」
「そうなんだ。弱いおばあちゃんでごめんね」

 初めて聞く過去の真実におばあちゃんのわがままで無茶苦茶な願いにはちゃんと理由があったことを知り、確かにそう言うことならそう思うのはわがままでも何でもない。

 愛する人を失うのは一度だって辛いと思うのに、二度失うことはどんなに辛いことなのだろう?
 ………おばあちゃんとは違うけれど、博士もそうなんだよね?
 それに比べで私はまだ何も失ってはいない。

「そんな事ないよ。それに私ならまだなにも失ってないから大丈夫。絶対博士を救いだす」
「そう言うことなら私もできる限る協力するから遠慮せず頼ってよ。これは帆波の花嫁姿を見るまで生きないと」
「は花嫁? 気が早いよ」

 前向きに張り切る私を見てすっかり安心したらしくおばあちゃんはニコニコしながら嬉しい事とそうなるか分からない未来を楽しみにする。
 相変わらずおばあちゃんの思い付きは突拍子がなくそんな事になったら嬉しいけれど、今の所可能性は限りなくゼロに等しい。
 でもゼロではないと信じてる。

「それはどうだろうね? 弱ってる人間は親身になって寄り添う相手に高い確率で恋に落ちるとか言うからね」
「確かにそれはそうだけど。所でおばあちゃんどこ行くの?」
「清四郎くんのお見舞い。帆波も行く?」
「うん」

 これ以上この話をしたら虚しくなるので話題をそらした問いをすると、結構重要な用事があることを答えられ誘われる。

 そんな大事な約束があったのに私を優先して良かったんだろうか?
 清四郎さんはこないだの事件以来眠ったままだと聞いていて、そのうちお見舞いに行こうと思っていたからちょうど良かったから頷く。
 昔は私を本当の娘のように可愛がってくれていた。

「ならお見舞いの花を買ってから急いで行かないとね? 今ならまだギリギリ間に合うから」
「そうなんだ。そう言えばおじいちゃんは行かないの?」
「帯刀さんはダリウスくんと横浜。遅くなるって言ってたよ」

 どうやら待ち合わせよりも大分早くここに来ていたようで取り越し苦労と分かったけれど、こう言う時には絶対着いて来そうなおじいちゃんが別の用事を優先させるなんて信じられない。
 あの嫉妬深いおじいちゃんがめずら…

!?

「おばあちゃん、まさかこのことおじいちゃんに話してないんじゃ?」
「話してるに決まってるじゃない? っていうか帯刀さんにもよろしくって頼まれてるの」
「そうだよね? いくらなんでもそれはないよね」

 たまにおばあちゃんがおじいちゃんに隠し事しようとして速攻バレて雷を落とされるのを思い出したのと同時に嫌な予感がして聞いては見るけれど、さすがにそれはないらしくやや大きな声で否定され頬をぷっくと膨らませたる。
 そんなおばあちゃんはいつ見ても可愛らしくて、怒られているのに危機感なく笑って難を逃れようとする駄目な孫。



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