夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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 その日から巡回をパスしがちになりロンドの解毒剤開発と博士が作ったと思われる呪詛の箱を調べる研究を進めるも、博士の最高傑作に私が簡単に対抗出来る手段が見つかるはずもなく進展もないまま数日が過ぎていく。
 焦りつつもたまには休みも必要でハイカラヤにコーヒーを求めて行く途中、裏路地で尚哉さんに似た後ろ姿を見つけるけれど何か様子がおかしい。

「お前って本当に酷いよね。僕のことはともかく物であるお前を人として扱い優しく接してくれた彼女よりも、今の御主人が一番だってよく言えたもんだ。まぁ記憶を忘れさせたのは僕だから、そうなって当然だけど」
「………」
「それで記憶を取り戻した今はどうなの? まだ今の御主人が一番? 物であるお前が恋愛ごっこをするのは構わないけれど、僕を裏切ったら許さないから。もちろん帆波に手を出すのことも」
「分かっております」

 いつもと違って荒れている尚哉さんの声は、萬の反論しない沈んだ返事が聞こえる。

 それは博士と萬の会話。
 萬はどんな理不尽なことでも貶されても博士には口答えしなくって、私か代わりに博士と口論になって萬を困らせていた。
 やっぱり尚哉さんは博士で萬を連れてこの地にやって来た。

 だけど記憶を取り戻したって、取り戻して良かったの?
 何かを企んでいる?

「それと帆波はどうなの? 彼女本人? それとも彼女の祖先?」
「まだなんとも言えないです」
「そう。どっちにしても帆波には死んだら困るし能力もありそうだから、彼女同様僕の助手にさせるよ。さっさとあのロンドを飲んでくれれば、思う存分可愛がってあげるのにね」

 どうやら博士は私が助手と同一人物だってことに気づかず、相当私を見下して興味がそんなにないらしい。
 と言うより今の博士は絶望の底にいるから、きっと誰にも興味がない。

 本当に私なら救い出せる?

「博士はシスターをどう思ってるのでしょうか?」
「シスターって帆波のこと?」
「はい」
「そんなの彼女の代わりに決まってるじゃない? お前だって帆波はお前の大好きなシスターの代わりなんじゃないの?」
「……そうですね」

 萬は迷いもなく禁句をストレート過ぎる問いに、博士は当然とばかりに聞きたくなかった答えを答えてしまう。
 いくら分かりきっていた答えで代わりでも博士のためならと思っていたとは言え、はっきりと言われた瞬間これ以上聞いているのか怖くて耳を塞ぎ逃げ出してしまった。

 それでも私は博士を幸せにするためなら、なんだってすることは変わらない。
 好きになってくれなくても傍にいてもいいんなら、博士が死ぬその日まで傍にいると約束したから。
 だけど、
 だけど、




「帆波?」
「おばあちゃん?」

 行くあてもなくがむしゃらに走っているとおばあちゃんの声に呼び止められる。
 立ち止まり振り返るととキョトンとしたおばあちゃん見た瞬間、こらえてた涙が溢れだし抱きつき泣いてしまった。
 あまりにも突然のことで意味不明なことなのに、ギュッと抱き締めてくれ優しく頭をなぜてくれた。

「話したくなければ話さなくてもいいけれど、一人で抱え込んで悩むのだけは辞めなさい。ろくな結果を生まないから」
「……誰にも言わないでくれる?」
「もちろん。帯刀さんも帆波との約束だからって言えば、寂しそうにするけどそれ以上聞かないからね?」

 絶対に何があったか知りたいはずなのにいつものように助言だけをくれるおばあちゃんに、秘密に出来るかと問うといかにもらしい答えが返ってくる。
 思わずクスッって笑ってしまい、おじいちゃんには悪いけれどおばあちゃんに相談することにした。

「あのねおばあちゃん。相談したいことがあるの」
「だったらまずは場所を変えないとね? 誰にも聞かれない静かな場所…この辺ならあそこか」

 そうおばあちゃんは言って、馴染みの和菓子屋へと向かう。

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