夢幻なる縁
□2章 偽りの婚約者
32ページ/38ページ
「萬、梓と千代に話したいことがあるから席をはずしてくれる?」
「はい、わかりました」
萬にそう言えば詳しい理由を聞かずでも少し寂しそうに頷き、伝記の本棚に行き背を向け読み始める。
本当は書庫から出ていって欲しかったんだけれど、単刀直入に言わなかった私が悪かった。
でも萬に盗聴器が付いている以上、迂闊には話せない内容。
「話したいことってなんですか?」
「コイバナ」
「なるほど。だから萬を遠ざけたのね? なら念のためもう少し離れた場所で話しましょうか?」
「そうだね」
千代の気配りのおかげで、少し離れた席に移動する。
「どうやら私、尚哉さんが本当に好きみたい」
「え、コハクじゃなくって?」
「昼間の件なら仲直りしただけだから。そりゃぁ善ちゃんは初恋の子だったけどね?」
こういう暴露は早くする方がいいからすぐに報告すれば、やっぱり昼間の件で誤解している梓が一番に驚き声も裏返る。
千代は少し残念そうにため息を付く。
この調子じゃまさか自分に気があるなんて夢にも思っていないだろうけれど、どうも善ちゃんは梓が好きと言うか憧れているんだと思う。
千代に聞けばわかるかな?
「と言うことは藤堂さんは私達には知らない良さがあるのね? じゃないと帆波が好きになるわけないからね」
「うん。尚哉さんは私の事をすごく理解して大切にしてくれてるんだと思う」
「そう言わて見れば、階段から落ちる帆波先輩を助けてくれたんですよね? 意外に良いとこあるんだなと思いました」
「あらだったら相思相愛なのね? 九段には残念だけれど、仕方がないわね」
「そう言う訳じゃないけれど 」
さすが恋愛経験者だけであって千代は私の本気が分かると嬉しそうに応援してくれるのに、梓と来たらどれだけ尚哉さんを嫌っているのかあまり分かってくれない様子。
梓と千代に対しては他の人達同様軽いから、私だってそう言う尚哉さんは苦手。
本心を知れば梓だって分かってくれるとは思うものの、秘密にしておきたい気分だから。
相思相愛だと嬉しいけれど、多分それはないだろうね?
なんせ初恋の人も恋人も死んでしまっている以上、相当なことがない限り好きになってはくれないと思う。
「でもこれで帆波とはちゃんとした恋ばなが出来るから嬉しいわ。梓にはまだ好きな人がいないから、分かってもらえない部分があるのよね」
「え〜つまり私だけ仲間はずれ? 私だってす気になる人ぐらいいるんだから」
どうやら本命がいないとコイバナとは言わないらしくテイション高めの千代の言葉に、梓は頬をプッくり膨らませかなり無理をしてるようにも思える強気な発言を告白。
初耳過ぎる意外な答えを私も千代も聞き逃すはずがなく
「え、なにそれ? 初耳なんだけど」
「誰なの?」
「コハクと秋兵さんとルードくん?」
「は、まさかの三人?」
「ねぇ梓。いくらなんでも股がけは良くないと思うの」
どんな答えが聞けるのかとわくわくしながら問いださしてみれば、これまた意外過ぎる答えに度肝を抜かれますます興味がわく。
それは千代も同じらしく、意地悪な台詞で更なる真相に迫る。
もちろん気になる人なんだから何人いようが構わな……さすがに何人もいたら駄目か。
まだ善ちゃんだけなら当然と言えば当然だけれど、よりにもよって秋兄とルードくんの名がなぜあがる?
ひょっとして悔しいからその場しのぎって奴か?
「御主人、大丈夫ですか? お二人とも寄って集って何を言ったのですか?」
「萬、何でもないから大丈夫」
「ですが、今の御主人の心拍数は大変乱れており精神状態も良くありません」
「わ私は大丈夫だから、安心して。じゃぁ二人ともおやすみ」
いつの間にか戻ってきた萬は梓をガードしながら、私達をこれ以上にもない警戒心を向け問う。
少し恐れを感じつつ弁解しても信じてもらえず、梓が一応私の合わせてくれるがそう言い捨て萬の腕を持ちその場から逃げていく。
これ以上は詮索されたくないと思ったから今逃げたにしても、私達には明日という物がある。
詰めが甘い。
「帆波は本当だと思う?」
「出任せかもね? だって私達に隠す必要なんてないじゃない? それとも千代には心当たりあるの?」
「コハクさんだけならね」
「それは私も」
まったく私と同じ考えを持っている千代の言葉でますます口から出任せの線が強くなり、同時に深いため息をつきそれからすぐに私達も解散した。