夢幻なる縁
□2章 偽りの婚約者
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「尚哉さん、今日はお付き合いありがとうございました」
「どういたしまして。なら今度は僕が行く晩餐会に付き合ってくれる?」
「はい。もちろん」
帰りも尚哉さんに送ってもらい別れ際にお礼をもう一度言えば、相変わらずの口調で軽く誘われ承諾する。
これが数日前だったら絶対に嫌だって思っていたのに、今は嬉しくてその日が待ち遠しい。
でもこれは偽りと言うことをちゃんと理解しとかないとね。
「ありがとう。分かったら連絡する。おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言い合い尚哉さんを乗せた自動車は走り出す。
「コスモ、ここが今日からコスモのおうち。おじいちゃんとおばあちゃん、四神達にお手伝いさん夫婦。後、梓と千代がいるんだよ」
「クン?」
ガゴからコスモを出し軽く説明するも、まったく分かっていない様子で口をペロペロと舐め始めるだけ。
流石にこの紹介で、子犬に分かるはずないか。
「ただいま」
「ワンワン」
『帆波、おかえり』
玄関にはいつも通り四神達が一番最初に出迎えてくれ、そして後からおじいちゃんとおばあちゃんがやってくる。
コスモがいることに驚かないと言うことは、おじいちゃまから私が子犬を連れてくることを聞かされているのだろう。
「その子が帆波のパートナーなんだ。名前はなんて言うの?」
「コスモ。少し臆病……でもおばあちゃんには大丈夫そう。はい」
動物好きのおばあちゃんにコスモも軽く尻尾をふり興味を示すので渡してみれば、 私と同じように甘えだし勢いよく顔中を舐め始める。
満天の笑顔のおばあちゃんを四神達は羨ましそうに見ていた。
「揃いも揃って何? もしコスモと同じ事をしたら燃やすから」
「言われなくても分かっています」
その様子ですべてを悟ったおじいちゃんは四神達に厳しく警告し、シュウちゃん以外は顔を青ざめさっと私の背後に隠れてしまう。
我が家は相変わらずおおむね平和だ。
「梓と千代は?」
「書庫にいるよ。帆波の帰りを待ってるみたい」
「ならすぐに行かないと。コスモはどうする?」
「ワンワン」
今度は私の問いが分かったらしく、私の胸元にダイビングする。
「3人ともただいま」
「帆波先輩、おかえりなさい。え、仔犬?」
「あら可愛い仔犬ね?」
ソファーで三人仲良く読書をしているのを見つけてまずは挨拶をすると、梓と千代は顔をあげ視線を私に向けたちまちコスモに興味津々となる。
萬は予想通り無反応だったけれど、コスモは迷いもなく萬の元に行き見上げながらちょこんと座った。
コスモは三人の中で萬が一番好き?
「シスター?」
「その子は私のパートナーになったコスモ。仲良くしてあげてね?」
「かしこまりました。ですがコスモ、私より御主人と駒野様の方がいいかと思います」
「ワンワン」
激しく困っている萬に私は笑いをこらえながらそれだけ教えると、コスモに対しても丁寧に物申すけれどそんなの分かるはずもなく首をかしげ甘え続けている。
ますます困惑する萬は私に助けを求めるけれど、そんな萬が可愛くてもう少し見守ることにした。
この分だとおばあちゃんよりも萬の事が気に入っ
ん?
ひょっとして萬が私の運命の人?
だけど萬は梓命だし私だって萬の事は弟の存在にしか思っていないから、恋愛感情抱く なんて今の所なさそうだけれどそのうちあったりするのかな?
そう言えば尚哉さんにはコスモはスルーしていたから、別に嫌いって訳でもなさそうだからこれからかな?
などと可愛い二人の姿を眺めながら、暢気にあり得るかも知れない未来を妄想していた。