夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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「マスター、ハイカラヤスペシャルセット二つです」
「あら、それって帆波ちゃんのメニューじゃない?」
「まぁ」
「だったら帆波ちゃんの分は奢りでいいから交ざってきなさい」
「え、男同士の話だろうから、遠慮しときます」

 オーダーすると何を思ったのかそんな心遣いをされるが、考えることもなく笑顔でそれを辞退する。

 まぁここで仕事の話はないだろうけれど、男同士くだらない話はしてるんだど思う。
 そう思いながら私もカウンターに入り、私が作った冷蔵庫から安道名津を取り出し揚げ準備する。
 海外にはすでに冷蔵庫はあるらしいけど。
 安道名津は私が提案したメニューだから基本私が調理している。

「男同士だからこそ花はあったらいいと思うけどね? 帆波ちゃんは可愛いし」
「マスター、この店って喫茶店ですよね……」
「そうだったわね? 今の話は忘れてちょうだい」

 冗談であってもアウトだろうそんな台詞に冷たい視線を向け呆れて聞き直すと、危機を感じたのか笑ってない笑顔に変わりそれだけ言って肩を落とす。

 要望通り忘れてなかったことにするけれど、本当に男って奴はなんなんだろう?
 奥さんがいても好きな人がいても、綺麗な色気がある女性を求める。
 ちょっと前には一夫多妻制だったし、未だって妾とか愛人は珍しくない。




「お待たせしました。ハイカラヤスペシャルセットです」
「ありがとう。帆波は本当に器用だよな?」
「まぁね」

 いつも以上に気合いを入れて作ったラテアートを見るなり、清人お兄ちゃんは感心して誉めてくれる。
 一方初めて見るはずだろう尚哉さんはあんまり興味がないらしく、すぐに飲むから形は崩れてしまう。
 ラテアートはそう言うものなんだけれど、反応ぐらいはして欲しかった。

「帆波、僕とこれからデートをしよう」
「え、デート? 私の門限八時までなので、今からは難しいです」

 いきなりすぎるデートの誘いを受けるけれど、時計はもうすぐ七時になろうとしている。
 もう上がっても良いと言われたからしようと思えば出来るけれど、そうなったら門限過ぎるだろうから罰として一週間は外出禁止になる。

「僕は帆波の婚約者なんだから、門限なんて関係ないよ」
「お祖父様には俺から伝えるから、いってきなさい。尚哉くん、妹をよろしく頼みます」

 都合の良すぎる理屈は清人お兄ちゃんにも受け入れられ、私の意思も確認せずデートは許されてしまう。
 確かに本物の婚約者ならそうかもしれないけれど、真相を知っているおじいちゃんには通じるはずがない。

 ううん。
 例え婚約者だろうとも許してはくれず、許可を出した清人お兄ちゃんに雷を落とす。

「二人ともストッープ。デートはまた今度にします。それでいいですよね?」

 急いで二人の会話を止め、思い付きでそう提案。

「うん、分かった。なら明後日の夕方四時に迎えにいくよ」
「分かりました」

 訳も聞かれず快く承諾されどうにかなりホッとする私。
 こののデートをどうおじいちゃんに切り出すかが課題だけれど、おじいちゃんは私に弱いからどうにかなると思う。

 あれ?
 良く考えればデートをなくす選択もあったはずなのに、なんでそれを選ばなかったんだ?
 私は尚哉さんとデートがしたい?

「楽しみにしてるよ」
「私も楽しみにしています。ではごゆっくり」

 尚哉さんの嘘偽りのない笑顔が眩しくて、私もまた笑顔で同意してしまい席を去る。
 デートが楽しみなのか無意識にスキップを踏み鼻歌を歌ってしまう。


「ふふーんふーん♪」
「帆波先輩、お迎えに来ました」
「帆波、帰りましょ?」
「え? 梓に千代。それから萬まで?」

 カウンターにはなぜか梓達がいて、意味不明なことを言い出す。
 すっかり浮かれまくっている私を見らてしまい恥ずかしい思いと、いくら萬がいてもか弱い女の子のお迎えに違和感を感じる。


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