夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
13ページ/38ページ

「帆波先輩、大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」
「え、そんなに?」
「は、はい………」
「シスター」

 自分でも訳が分からない衝撃の受け方と大袈裟すぎるぐらいの梓と萬からの心配のされ方に、余計何を返せば良いのか分からなくなる。

 私は本当に大丈夫なんだろうか?

 尚哉さんの事なんかまったくと言って良いほど知らないはずなのに、知っているような気がして恋愛感情を抱いているのは確か。
 一目惚れではない。
 私の好きな人は記憶にはない博士で

「……まさか尚哉さんが博士?」
「え?」
「ううん、なんでもない。私、用事思い出したから行くね」

 フッと呟いてしまい、梓は不思議気な顔を見せる。
 接点がなさそうで突拍子もないことだけれど、よく考えてみればそうでもない。
 ロンドと自働人形は未来の技術を応用して、この時代に合う技術+陰陽術を使えば道理は通る。

「え、一人で大丈夫ですか?」
「四神達がいるから平気。萬、梓のこと宜しくね」
「かしこまりました 」

 私が言わなくても萬なら完璧に梓の護衛をこなすとは思いつつ、一応そう確認して私はまず情報を得られそうなお父さんに急ぐ。
 
 婚約している以上、実家を避ける理由はもうない。






「お帰りなさいませ、帆波お嬢様」
「ただいま。お父さんはいる?」
「はい、旦那様なら自室にいます」
「ありがとう」

 久しぶりに実家へ帰ると執事長の光永さんが出迎えてくれる。
 光永さんは先祖代々藤原家に仕えていて、お父さんが生まれたときからの専属の執事だったらしい。
 おじいちゃんちのお手伝いさんもそうだったよね?
 お手伝いさんと言うか家族になってるけど。
 そう言うのは古い考えで廃止すれば良いと思うけれど、本人達が誇りに思っているのだからこのままでも良いのかも知れない。

「帆波お嬢様、本日はお泊まりになられますか?」
「ううん。話が終わったら帰るよ」
「さようですか。お紅茶とお菓子を持っていきますね」
「うん。よろしく」

 なぜか微かに寂しげな表情を浮かべる光永さんだけれど、それだけ聞いて勝手場の方に向かう。

 もしかして泊まるって言って欲しかった?



「お父さん、帆波だけど入っても良い?」
「帆波? いいよ。何もない時に帰ってくるなんて、珍しいな」
「まぁね? 実は尚哉さんについて教えて欲しいんだけど」

 よほど実家に帰ってないのがもろ分かりの驚きの台詞だけれど、それでもお父さんは歓迎してくれてるようで顔がもろにニヤけていた。

 愛娘が帰ってきてくれば、父親として当然か。

「尚哉くんの?」
「うん。おじいちゃんから聞いたんだけれど、尚哉さんって養子なの?」
「さすがお義父さんだね? どうやら実の息子が危ないらしいんで、世間には内密で養子を貰ったそうだ」
「そうなんだ。じゃぁ尚哉さんは何者なの?」
「選抜試験を勝ち抜いたエリート中のエリート。素性もはっきりしてるそうだ」
「ふ〜ん」

 意外にあっさり謎が溶けてしまい、ちょっと拍子抜けしてしまう。
 もちろんそれ事態がすべてが嘘と言う可能性があるけれど、そんな人がお見合いするのもおかしな話。
 でも偽りならありえるのかな?

「そうそう。藤堂家は元は星の一族だったらしい」
「え、星の一族?」
「ああ。しかしその力を私有私力に使って破門されたようだ。本来星の一族の力は龍神の神子に使うと言われてるからね」
「じゃぁ我が家もやっぱり本家にバレたら殺されるかもね?」
「うっ……。我が家の場合は龍神の神子の末裔でもあるから、ギリセーフだろう? 帆波はちゃんと龍神の神子の力になりなさい」

 思わぬ収穫に改めて星の一族の恐ろしさを知り半分冗談で言ってみれば、お父さんは真っ青になり苦し紛れの言い訳に今さら星の一族らしいことをしようとする。

 しかも自分ではなく私に任せるって言うのはどうなんだろう?
 私が四神の神子で四神が傍にいるから?

 だけどお父さんの味方をするとしたら藤原財閥の収益の一部は匿名で寄付をしたり公共施設を運営しているから、そう言う地道な活動も見てから判断して欲しいものだ。
 まぁ言わない限り、バレることはないけれど。

「あなた、帆波。紅茶とお菓子を持ってきたわよ」
「え、お母さんが?」

 上機嫌のお母さんの声が聞こえたと思ったら、扉が開きお母さんが入ってくる。
 食事は作るけれどこう言うことは滅多にしないから、少しだけ驚く。
 驚かすのが大好きだから狙ってやったんだろうけれど、どうしてそんなに上機嫌なんだろうか?

「だって珍しく帆波が帰って来たんだもん。私もおしゃべりしたいのに、あなただけずるいわ」
「それはすまない。だったら三人で話そう」


 これからは頻繁に実家へ帰ろうと思います。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ