夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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「梓、こんな所で何してるの?」

 昼食を終え気分転換も兼ね浅草を萬と彷徨いてると、若いきれいな女性達の列がありその中になぜか梓もいる。
  とにかく不思議すぎる光景なため梓に声をかける。

「あ、帆波先輩と萬。この先に藤堂さんがいるので、せっかくだから挨拶をしようと思って」
「は? あんたも律儀ね。挨拶だけなら並ばなくても良いじゃない」
「それもそんなんですが、割り込みすると怒られるので」

 いかにも生真面目な梓らしい答えに苦笑しつつ、梓の手を取り女性達をかき分け先頭へと急ぐ。
 思いっきり睨まれ阻止されるけれど、うまく掻い潜る。
 おそらくこれはおばあちゃんの言っていた観覧車待ちだから、順番なんて待っていたら日が暮れる。
 そもそも尚哉さんのことを快く思ってないのに、並んでまで挨拶をするのは梓ぐらいかも知れない。

「あれ、帆波とお姫さん?」
「藤堂さん、こんにちは」
「こんにちは。じゃぁ行こうか?」
「はい」

 挨拶だけならあっと言う間に終わり他に用もないので、あっさりと離脱しようとする。

「まさか挨拶するだけ? なにそれ?」
「そのまさかですよ。尚哉さんは女遊びに忙しいようなので、私達は空気を読んでさっさと退散します」

 それが不満なのか目を見開きバカにするように問う尚哉さんに、負けじとにっこり笑顔で嫌味を込めて言い返す。

 女遊びをする男性なんて最低な人種。
 なんか無性にイライラして悲しくなる気がした。

「そう? ならみんなごめんね。婚約者がご機嫌斜めだから、今日の所はこれで終わり。また違う日にでも」
「じゃぁあなたが藤原財閥のご令嬢?」
「え、まぁ……」

 別に良いのに軽いのりで私に近づき終わりを告げれば、女性達は青ざめ真実だと分かると何も言わずにサッといなくなる。
 さっきは睨んだりしたのに、誰も文句を言う人はいなかった。

 ?

「さすが帆波の後ろ楯はすごいよね? 馬鹿じゃなければ、藤原財閥を敵に回そうする人はいないからね」
「なるほどそう言うことか。と言うことはそれだけの理由で偽りの婚約者に選んだんですか?」

 だとしたらショックである。

「それだけではないよ。ご令嬢なのに世の中に関心を持っていて、科学者に本気でなりたいと思っている。珍しいタイプだから興味を持ったんだ」
「私の事バカにしてます?」
「まさか。帆波といると楽しいんだよ」
「………」

 多々引っ掛かる言葉はあるけれど、私の夢に理解はありそうだった。
 それに楽しいと言われた瞬間、イライラの変わりに鼓動が高鳴りだす。
 そんな私の心情を察知したのか、腰に手を回し密着させた。
 尚哉さんの香水はこの前とは違い甘い匂いで、なんだかますます目が離せなくなる。
 笑顔の彼なのに瞳の奥は凍りついて、私の事なんて見ていない。

もしかしたら見た目よりチャラい人ではなく、やっぱり闇を持っているんだと思う。

「うん。今の帆波すごく色っぽくてきれいだよ。どうこれから僕と楽しいことしない?」
「藤堂さんストッープ」

 突然梓が大声を出し、すごい剣幕で私を尚哉さんから引き離す。

 梓が怒ってる?

「梓?」
「帆波先輩、目を覚まして下さい。こんなチャラい男あなたには似合いません」
「酷いなお姫さん。それは帆波が決めることじゃないの? 大体帆波に釣り合う男性って誰? クローバーとか言うやから?」
「クローバー? あ、彼らでも良いと思います。私推しは断然九段さんです」

 何か勘違いをしている梓は尚哉さんが怒ったのも構わず、言わなくて良いことを胸を張って言い切ってしまう。
 私のためにしてることでありがたいんだけれど、少々やり過ぎである。
 それとも四神達をクローバーと認識しただけでも良かったと前向きに考えるべき?

「九段って星の一族のだよね? 帆波は彼が好きなの? それとも他にいるの?」
「九段さんは友達なだけです。私の好きな人はノーコメントです」

 九段さんに迷惑が掛かりそうなのでそれはきっぱり否定し、後者の答えは曖昧に答えて様子を伺う。

 まさか私の好きな人は未来の科学者だとは言えないし、四神の誰かにしたら日本が滅びかねない。
 その前におじいちゃんに焼かれるから大丈夫か?
 私の好きな人をおじいちゃんは否定する?
 ………しそうで怖い。

「と言うことは好きな人がいるんだね? まぁ僕にもいるからおあいこだね。それじゃぁ僕はこれで」
「!?」

 尚哉さんはそう解釈し涼しげな顔で言い別れるけれど、なぜかその瞬間頭を金づちで殴られたような衝撃を受ける。



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