夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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「さあて、ちゃっちゃと思い出しますか? 本当にこれで全部なんでしょうね?」
「我らが回収したのはこれですべてだが、後一つはあるはず」
「現在必死に探してるが、見つからない」
「………」
「本当です。信じてください」
「もう帆波に嘘はつかない」

 私服に着替え研究室に戻り結晶の欠片を確認しながら四神達に問い詰めると、全員怯えた表情を浮かべ必死に弁解するのがよく分かる。
 しかし一度信用をなくすと回復するのは困難なこと。

 後一つか。
 何が欠けてるのだろうか?
 少なくても博士が誰か分かれば良いんだけど。

………尚哉さんだったら良いのにな。

 そう思いながら結晶の欠片を強く掴むと以前同様消えてなくなるけれど、その瞬間一気に記憶が溢れだし頭が混乱してしまい意識が遠のいていく。

『帆波!!』

 四神達の声が遠くで私を呼ぶ。






「シスターシスター」
「え、萬? !? ここはどこ?」

 萬の声が私を呼び目を覚ますとそこは私の研究室ではない場所だった。
 素で疑問を呟いた後、寝ぼけていることに自覚する。

 ここは私が働いている研究室で、………今のは夢?

「たかが二日の徹夜ぐらいでうたた寝? 助手の分際で良い身分じゃない」
「す、すみませんすぐに再開します。!? ドクター?」
「まだ寝ぼけてる?」

 二日も徹夜すれば睡魔ぐらい襲われても当然なのに博士は相変わらず鬼で私を馬鹿にするけれど、博士の顔を見た瞬間尚哉さんであることが嬉しかった。

 あの夢は一体なんだったんだろうか?
 私は四神の神子になって後輩の梓が黒龍の神子で白龍の神子も八葉も四神もいて怨霊退治をしていた。
 博士が私の婚約者になっていて……。
 まだ頭の中がこんがらがってよく思い出せない。

 本当にあれは夢?
 それとも未来?
 未来だとしたら何かがおかしい。

「もう完璧に目が覚めました。どんどん仕事を下さい」
「そう? 私はこれから姫とデートだから、あとのことはよろしく頼むよ」
「え、姫?」

 疑問はつきないけれど一先ずそれは置いといて、今は研究に集中しようと思ったのに、博士の口からとんでもないことを聞かされ巨大なショックを受ける。

 姫とデート?
 何それ?

「は? 姫は亜理紗の妹で僕の彼女で君の親友でしょ? 本当に大丈夫?」
「え? ………私具合が悪いみたいなので、自室に戻ってやすみます」
「そうした方がいいね? 萬、頼んだよ。僕は行ってくるから」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」

 珍しく博士に心配されて休むことは許され、博士は幸せそうに研究室から出ていった。

 言われて思い出した。

 私は数年前、ここに飛ばされた。
 その時亜理紗さんとその妹の姫に拾われて亜理紗さんの彼氏である人の紹介で弟の博士の所に姫と一緒に疎開することになった。
 私は終戦させるため博士の助手、姫は家事全般をすることで無理矢理納得させて。
 そして博士と姫は一ヶ月前に婚約し、終戦したら結婚するらしい。
 …………。
 私も博士に片想いをしてたんだけれど、結局想いを伝えないまま失恋してしまった。
 この想いを知ってたのは萬だけ。
 もう心の整理がついたつもりだったのに、まだ失恋の傷は癒えていないんだね。





『帆波』
「え、ここは私の研究室?」

 四神達の声で再び気づき目を覚ませば私の研究室で、四神達が心配げに覗き込んでいる。
 おじいちゃんとおばあちゃんがいないと言うことは、私が気を失っていたことをまだ話していない。

 おばあちゃんはまだしもおじいちゃんに知られたら殺されるもんね。

「一度に大量の欠片を摂取するから気を失ったんですね? 気がついてよかったです」
「嫌な記憶だったんだね?」
「そうだね? 記憶は思い出したけれど、大失恋した記憶も思い出しちゃったんだ」
「大失恋? こないだ言ってた好きな奴にか?」
「うん………」
「帆波を振るなんてとんだ罰当たりもいるものだね。代わりに我が癒やしてあげるよ」
「白虎、抜け駆けはいけませんよ。みんなでです」

 思い出すと胸が痛くて涙が止まらなくなり、四神達の優しさに甘えてしまい抱きつきわんわん泣いてしまった。

 こんなことになるからみんなは、私に隠してたんだね?
 私を傷つけさせないように。

「………ありがとうみんな」


 ロンド

 博士と私で試行錯誤を重ねた開発した洗脳薬。
 これを相手側に飲ませれば、戦意喪失させ自ら撤退してもらい終戦を迎える計画だったはず。

 それなのになんでこんな過去まで来て、嘘をついてロンドを民衆達に売りさばいているんだろうか?
 それとも本当に美容効果があって、研究費のため出稼ぎに来たとか?

 私にはまだ未来からここに戻ってきた記憶は戻ってないからなんとも言えないけれど、 多分その作戦は失敗し初恋の人もお兄さんも恋人も失って自暴自棄になっているんだと思う。
 だから出稼ぎとかじゃない。
 ……………。
 そう言えば前にこの時代で起きなかった戦争を開戦させれば未来の戦争は回避できると言う結論にたどり着いたけれど、あの時は気にもとめずお払い箱になりそのまま存在を忘れていた。
 それにおじいちゃまは、尚哉さんは軍と繋がりがあると言ってた。
 まさかそれを狙ってる?
 でもでもあの本当は優しい博士がそんなことするとは思いたくもない。
 意地悪だけれど本当は優しくて寂しがり屋な人。



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