夢幻なる縁
□2章 偽りの婚約者
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本日は千代一行に同行することにした。
同行者はルードくんとコハクくん。
コハクくんはともかくルードくんともあまり話したことがなかったから、これが良いきっかけになればと思い選んだり。
「凪さんは、寺子屋の先生だったのですか?」
「うん、そうだよ。 読み書きそろばんに英語。後は道徳。鬼も外人もみんな同じ人間なんだから仲良くしましょう。やられたらやり返せが方針だった」
何を話題にすれば良いかと考えていると、ルードくんからおばあちゃんのことについて話しかけられる。
十年ぐらいまでやっていて、もちろん私も生徒だった。
そう言えば一時善ちゃんも通っていたっけぇ?
そう思いながらコハクくんもちらりと見ると目が合ってしまい、コハクくんの頬を赤く染め慌てて反らされる。
可愛いと思いつつも、地味にショック。
「だからこの辺の人達は鬼とバレても普通なのですね。しかしやられたらやり返せとは教育者としていかがなものかと」
「え、じゃぁルードくんは、嫌なことされても何もしないの?」
「時と場合にもよりますが、大概は何もせず退散します」
若いのに随分お堅く優等生の模範解答を言われてしまい、ますます生真面目の印象が強くなる。
あっけらかんのおばあちゃんのこと実は嫌ってるとか?
「ねぇルードくん。おばあちゃんのこと苦手だったりする?」
「いいえ。確かに危なっかしくてそそっかしいところもありますが、それ以上に我々鬼の一族にも理解のある優しくて寛大な人だと思います。孫の帆波さんが羨ましいです」
恐る恐る聞いてみたらちゃんと理解してくれていて、意外にも好んでくれているようだった。
しかし危なっかしくてそそっかしい。
………容赦ないな。
「ルードくん、これからもおばあちゃんと良いお友達でいてね」
「はい、もちろんです」
年相応のルードくんの可愛らしい笑顔が見られて、少し得した気分になる。
これでルードくんとも打ち解けたかな?
「それにしてもどうしておばあちゃんが寺子屋をやっていたことを知っていたの?」
「先日知り合いなった老人が凪さんの教え子で凪さんに憧れて師になったらしいですよ」
ありがちな理由にすぐ納得する。
おばあちゃんの教え子はおばあちゃんを慕っていて、おじいちゃんより劣るけれどかなりの人脈の持ち主。
だからあの二人が本気を出したら、穏便に帝都の征服を簡単にしてしまうだろう。
「本当に凪さんは格好良いわよね? ますます憧れてしまうわ」
そしておばあちゃんの株はまた上がる。
千代の中のおばあちゃんはどんなことになっているのか気になっているんだけれど、なんかすごい美化されせていそうだから聞かなかったことにして話を戻そう。
「それじゃそろそろ手分けをして捜索開始しょうか?」
「そうですね。では二時間後にここで」
「分かった。何かあったら連絡するわね?」
すんなり話は元に戻り、私達は別々の場所を捜索開始する。
コハクくん、一度も会話に入ってこなかったな?
私のことを嫌っているのは分かっていたけれど、まさかここまで酷いとは思わなかった。
一対一が無理でも複数なら平気だと思ってたのに、気楽に考えていたかも。
明日からはもっと距離をとるべきか?
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「帆波、それではいけません」
「す朱雀? え、ちょっと」
つい後ろ向きな考えをした途端、明らかに怒ってる朱雀が現れ言うだけいって腕を掴みどこかに連れていかれる。
朱雀が怒るのも勝手に札から人の姿になるのも珍しい。
そしてこう言う時は何よりも怖いから、下手に逆らわず静かに従うのがベストだ。
「一緒にいるので、天の朱雀とちゃんと話し合いなさい。あなたらしくない」
どうやらコハクくんとの関係で怒っているようだ。
確かにコハクくんは天の朱雀だから、仲良くして欲しいんだろうな。
「いいえ、話し合いの末無駄ならそれはそれでいいんです。凪だって天の青龍と地の白虎とは最後まで距離をとってましたから」
―地の白虎は変態であったが故に、帯刀が近づけなかったのもある。
―え、八葉って変態がいるの?
そうでもなくシロちゃんの声は本気で疎ましく思っているようで、先代の地の白虎が気の毒に思えてくる。
例え本当の変態でも、守護する人の子は信じてあげようよ。
「白龍の神子が好き過ぎる人て回りが見えなくなってましたからね? それ以外は多分普通です」
「そうなんだ」
代わりに朱雀が肩を持ちフォローするけれど、イメージは余計にがた落ち。
それって確実にストーカーとか言うやつなんじゃ?
ゆきさんも大変だったんだな。
「とにかく帆波と天の朱雀は幼い時は仲良かったのですから、話し合えばきっと誤解は解けるはずですよ」
「うん、そうだね? 話してみるね」
結局朱雀はそれを言いたかったようで、私もようやく話し合う決心がつき足を急がせる。
「コハクくん、待って。話があるの」
朱雀のおかげで迷うことなくコハクくんが見つかり、私は大きめな声で呼び止める。
「帆波さん? ……ごめんなさい。オレ急いでるから」
「え、ちょっと待って?」
立ち止まり振り返ってはくれるけれど、視線を合わせず悲しげに断り走り出す。
まさかの展開に私はコハクくんの後を追い走るけれど、お決まりのように派手に転けてしまう。
さっき二人で話すからと言って朱雀の札に戻したことを悔やまれる。
−帆波、大丈夫ですか?
−怪我してないか?
−天の朱雀なら我が捕らえるぞ?
−それは良い考えだね? 我も協力しよう。
【そんなの駄目に決まってるでしょ】
私を心配してくれる四神はありがたいけれど、どうしても暴走してしまう傾向にある。
愛しき神子達を悲しませる人の子は、死して償えと言う恐ろしい考えの神様連中。
大体私はただコハクくんと話し合いたいだけなのに、なぜそんな犯罪者紛いの仕打ちをしようとする?
「帆波さん、大丈夫?」
「ありがとう」
先に行ったしまったはずのコハクくんが目の前にいて心配そうに手を差し伸べらてくれるから、私は遠慮なくその手を取りお礼を言いながら立ち上がる。
やっぱりコハクくんはあの時変わらない私が大好きな優しい善ちゃんだ。