夢幻なる縁
□2章 偽りの婚約者
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「尚哉さん、本当にすみませんでした。そしてありがとうございました」
「本当に気にしなくて良いよ。君が無事だったからね?」
おばあちゃん達が部屋から出て行った後、今度は私の口から謝罪をしても返ってきた言葉はさっきと同じ。
「だけど残念。せっかくのデートが出来なくって」
「そんなに私とデートしたいですか? 偽りなのに」
軽い口調割には言葉通り残念に思っていると思う尚哉さんに、やっぱり気になる本心を率直に聞いてみる。
単なる女好きだけじゃなさそう。
「だって帆波は可愛いじゃない? それに帆波といると、刺激的で楽しいからね」
「えあありがとうございます」
なんの迷いもなくさも当然に答えられ、恥ずかしくて下を向きお礼をする。
この際可愛いって言うのは、どうでも良いとして、
刺激的で楽しい。
ってどういう意味?
告白的なもの………じゃないよね?
「僕ね。二回失恋してるんだよ」
「え?」
「初恋の人は一目惚れで数回しか話したことがない女神のような崇高な人だった。しかも兄さんの恋人。次の人はその妹で姉とはまったく異なるどこにでもいるタイプで、最初は疎ましく思っていたんだけど、徐々に引かれていったんだよね?一度は想いが通じたんだけれど、肝心な所で姉の名前を呟いてさ。勘違いされて泣いて家を飛び出したんだ」
「それはお気の毒ですね? 妹さんには謝ったんですか?」
いきなり話される恋ばなではあったけれど、それは一番駄目な展開でそうなるのも無理もない。
妹さんはお姉さんの変わりだと思ったんだよね?
それって結構辛い。
でもそれが誤解と言うのならば、誤解を解けば良いだけのことなんだと思う。
「飛び出して行った先で事故にあって死んだんだよ。姉も兄さんと死んで、僕はいつだって置いてきぼり。彼女はいつも僕より先には死なないって言ってたのに、酷すぎるとは思わない?」
時たま見せる絶望した目になり、悲しげに問われる。
もし私が尚哉さんだったら人間不信になり絶望してしまう。
ひょっとしたら後追い自殺するかも知れない。
あ、だから尚哉さんはそういう表情を浮かべるんだ。
「尚哉さんはその妹さんを今でも愛してるんですね?」
「さあね?ひょっとして本当に僕は姉の方をまだ忘れないのかもしれない」
そこははぐらかされけれど、多分まだ愛していると思う。
今まで女たらしだと思っていたけれど、意外に一途な人で恋愛ベタなんだね?
そして前は尚哉さんの恋ばなを聞いたら悲しかったのに、どう言い訳か今は心の奥が暖かくなってうれしい。
「人生きっとこれからですよ」
「そうだね? 所で帆波はどうなの? 初恋の人はどんな人?」
「私の初恋は小さい頃です。毎日遊んでいた明るい男の子」
今度は私の恋ばなになり結構話してもらった手前、話す抵抗はなく打ち明ける。
ただ善ちゃんだとバレると迷惑だから、名前と特定しやすい材料は当然伏せておく。
「へぇ〜。それで今は?」
「優しい女の子に出逢えたみたいなので幸せそうですよ」
「ショックじゃないの?」
「別にもう好きでもないですからね。幼い頃の初恋なんて今となっては良い思い出でしかありません」
自信を持って答えられる。
善ちゃんは昔通りの優しい男の子なだけで、恋愛対象としては考えられない。
昔みたく仲良しの友達に戻りたいとは思うけれど、何かきっかけがないと難しいんだろうな。
それにどうやら梓にほの字らしい。
「女性って結構冷たいんだね? 男性は引きずるから苦労するのに。だから彼女を怒らして泣かした訳で」
「きっと尚哉さんの初恋とは違うんだと思いますよ」
相当懲りている尚哉さんはそう苦笑するから、私はやんわりと援護する。
子供の初恋と青年ぐらいの初恋では、訳が違う。
逆に子供の初恋を引きずってたら怖いものがある。
「帆波は優しいね? ねぇ、本気になっても良い?」
「え、そそれは……」
「冗談。もう僕は本気の恋はこりごりだから」
「はぁ」
急展開な真面目だと思われる問いは考える隙を与えられないまま、すぐに冗談と言われ頭をポンポンと叩かれ私はキョトンとしてしまう。
やっぱり尚哉さんは恋愛をするのが怖いんだ。
そうだろうね?
「そうそう清人さんから聞いたんだけど、三日後藤原会長がくるらしいね」
「あっそうだった。尚哉さん、その時の食事会一緒に出てもらえませんか?」
「もちろん。僕は君の婚約者なんだからね?」
忘れかけていた重要なことを思い出されてくれ頼んでみれば、言われるのを待っていたのか二つ返事で承諾される。
ずいぶん切り替えの早い…じゃないとやってられないか。